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夢盗奴
第一章 出合
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かうつもりだった。
 頬を撫でる涼秋の風があまりにも心地よく、少し散策してみようという気になった。しばらく歩むと、懐かしさがじわじわと込み上げてくる。八王子の街、全てがこの街から始まった。悲劇の幕切れではあったが、間違いなくそこには青春があったのだ。
 繁華街に足を向ける。駅前には予備校が多い。雑踏には大学生なのか予備校生なのか見分けのつかない男女が屯する。人も、街の佇まいも、目に入る全てが目新しい。8年という月日は人の心も、外見も、街並みさえも変えてしまった。ふと、胸騒ぎを覚え、歩みをとめた。
 誰かが、自分を呼んでいる。あたりを見回した。一本の道がまっすぐ伸びている。そうだこの道だと直感した。微かな思いが中条の脚を突き動かした。狸のような化粧をした少女達、耳飾りをした男達を尻目に異国の街を急ぐ。
 駅を通り過ぎ、大学に向う道沿いを歩いた。誰かが中条を待っている。そんな気がしてならなかった。10分ほど歩くと、細い路地が目に入った。おもむろに覗き込むと、50メートルほど先に質屋の看板が見える。
 その看板には記憶があった。かつて学生時代、何度も世話になった店だ。質草はいつも時計だった。中条はその質屋に足を向けたが、ふと歩みを止めた。質屋から若者が出て来る。若者は財布を尻のポケットにねじ込んで中条の方に向かって歩き始めた。
 中条の膝はがくがくと震え、鳥肌がたち、それが体中に広がっていった。驚愕で見開かれた目は、その若者に釘付けになっていた。喉がからからに乾いて、声がかすれた。
「あれは、俺だ。25年前の俺じゃないか」
 中条は、その若者のジャケットの柄、落ち葉の季節、そして顎髭を見て、その時の記憶が鮮明に蘇った。今歩いて来た道沿の喫茶店に、あの洋子を待たせている。金を作ってくると言ってその店を出て質屋に駆け込んだのだ。
 そして、遠い記憶の片隅から一人の老人の姿が浮かび上がった。中条は思わずうめいた。その日、質屋を出ると、頭のいかれた爺さんに出会ったことを思い出した。
「あの爺さんは、今の俺だったのか!」
 ざわざわという振動が背筋を駆け登る。遠い過去から現在に至る記憶の断片が浮かんでは消え、自分を地獄の底に陥れた女性の顔が脳裏に描かれてゆく。最後にはっきりとその輪郭が現れた瞬間、中条は若き日の自分に向って駆けだした。

 中条は質屋を出た。月半ばにして親からの仕送りが底を尽き、洋子とのデート代にもこと欠くありさまだった。親父の残してくれた時計は質屋で20万の価値があると言われたが、引き出す時に苦労するので10万だけ借りることにしている。
 喫茶店で待っている洋子の姿を思い浮かべた。自然に顔がほころぶ。ホテルに行って、それから、洋子の好きな焼肉屋にでも連れていこうと考えた。するとそこに白髪の老人が息せき切って駆けより、目の前に立ち
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