第一章
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レッスン
ロサンゼルスには多くのダンスのレッスン教室があるが特に有名な教室が一つある、だが。今このレッスン教室が何故有名かというと。
素晴らしいコーチがいるからではない、コーチとは別の理由からだった。
「また出たのか?」
「ああ、そうらしいぞ」
「十二時に鏡からな」
「見た奴がいるらしいぞ」
「またあの教室なんだな」
皆顔を顰めさせて話す、この教室は怪談で有名だった。
教室があるビルのオーナーであるオトフリート=ハイデルベルグもだ、この噂には苦い顔で言うのだった。
「そんな噂が出たらなあ」
「そうですよね、今生徒が減っていますよ」
教室でダンスを教えるそのコーチ、ヘンリ=オッドウェルも困った顔である、今二人で話をしているのだ。
「少しずつですけれど」
「当然だな、不気味な話がする場所にいたい奴なんてな」
「怖いもの見たさの奴しか」
三十位の黒人のコーチだ、彼は白い髭のドイツ系のオーナーに言う。
「来ないですよ」
「そういうの目当てでやるか?いっそのこと」
オーナーはここで逆転の発想に入った。
「そうすればk生徒も戻るか」
「どうでしょうかね」
コーチは首を捻ってオーナーに返した。
「その幽霊次第でしょうね」
「それでどんな幽霊なんだ?色々言われているみたいだが」
「何か鏡から出るとか」
コーチは彼が聞いたその噂を元に話した。
「いない筈の誰かがいるとか」
「よくある話だな」
「はい、こういう話では」
「こうした話ではよくある話だがな」
オーナーはその口髭を右手で触りながら言った。
「しかしな」
「それが商売になるならですか」
「生徒は多いに限るだろ」
オーナーは経営者の立場から言った。
「やっぱりな」
「はい、それは私にしても」
「アメリカ人は転んでもただでは起きない」
まさにその通りだ、転べばそこにある土を掴んでそれを何かにしてみせる、だからこそ瞬く間に大国になったのであろう。
「幽霊が出たらな」
「その幽霊を、ですね」
「商売の道具にしてみせる、そうしてやろう」
「強気ですね」
「強気なのがアメリカ人のいいところだよ」
オーナーは誇らしげに笑って言い切った、大柄な身体は肉付きがよく白い頭はカーネル=サンダースの様である。
その彼がだ、自分の席に座ってその前に立っている長身の痩せてアフロのアフリカ系のコーチにこう言ったのである。
「それは君もだね」
「ええ、その通りです」
コーチもオーナーにこう返す。
「じゃあな」
「やりますか、幽霊を前面に出して」
「ああ、それで生徒が戻ってな」
オーナーはコーチに確かな顔で言った。
「増えればそれでよしだ」
「それじゃあそういうことで」
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