プロローグ
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――エミルは息を飲んだ。
この世界に来て、見たものはあまりにもひどい光景だった。
消されたかのように破壊されている街。
隕石が落ちたかのようにできていた、巨大なクレーター。
武装をして、空を舞う、幾つもの人影。
全部、夢か幻としか思えないほど、馬鹿げた景色。
そんな世界に来たエミルは、こんな異常な世界を、朧気にしか見ていない。
――だが、そんなものより遥かに異常なものが、エミルともう一人の男性、士道の目の前にあった。
それは、少女だった。
奇妙な光のドレスを纏った少女が一人、立っていた。
「ぁ――――」
嘆息に、微かな声が混じって消えた。
他のどんな要素も不純物に成り下がるほどに、その少女の存在は、精霊であるエミルと同じ位の圧倒的存在だった。
まるで、金属のような、布のような、不思議な素材で構成されたドレスにエミルは目を引いた。
そこから広がった光のスカートも、綺麗だった。
しかし彼女自身の姿容は、それらが脇役に霞ませるものだった。
肩から腰に絡みつくように煙るは、長い闇色の髪。
凛と見上げるは、何とも形容しがたい不思議な色を映す二つの瞳。
女神マーテルにも、嫉妬を覚えさせるほど、顔を物憂げに歪め、静かに唇を結んでいるその様子は。
視線を、注意を、心をも、
――一瞬にして、奪った
それくらいに、あまりにも、尋常じゃないほど、
、、、、、、、、、、、
暴力的なまで、に美しい。
「――君、は……」
「――君の、名前は?」
呆然と。エミルと士道は声を発していた。
そして少女が、ゆっくりと二人に視線を下ろしてくる。
「……名、か」
心地のいい調べの声音が、空気を震わせた。しかし。
「――そんなものは、ない」
どこか悲しげに、少女は言った。
「―――っ」
「……名前が、無いの?」
その時、エミルと士道に目が交わり――エミルと士道の物語は、始まった。
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