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王道を走れば:幻想にて
第四章、その8の1:示す道
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ば魔術はないと信じてやまぬ彼にとって弟子の生き死になど大した問題ではなかった。

「ふむ・・・今度はどうかな・・・」

 被験体の胴体部分に六芒星型の印を刻むと、マティウスは数歩離れて手を翳す。指の先から見えない魔力の糸が出されて印に流れていく。印全体にまで魔力が行き届いたのを見るとマティウスは軽く両手の指を弾く。その瞬間、印は縁に沿うようにして爆ぜて血肉を辺りに撒き散らした。
 無意識に這った『障壁』の魔術によって血肉は無色の壁に弾かれ、地面に落ちた。マティウスは被験体に近付いて目的の代物をそこから取り出す。完璧な形を保ったままの人の心臓であった。

「よしよし。術式はあれでよいようだな」

 ただの思い付きでも功を奏するものらしい。特定の臓器のみを摘出する術式をこの瞬間マティウスは開発し、一先ずの満足感を得ていた。そうしているとこつこつと、階段を降りてくる音が耳に入ってくる。現れたのは蝋人形のような白い肌をした男である。身体がやけに筋肉質なのは無理な研究を行われたせいなのだろうか。どちらにせよ毒薬によって彼の本来の意識は既に天に召しており、今では唯の人形同然の存在であった。

「マティウスさま。お知らせがございます」
「話せ」

 耳元で男が囁く。それを聞いたマティウスは一瞬目を見開き、すぐに引き締まった表情をして告げた。

「出立の準備をしろ。輿も出せ」
「はい」

 生気の感じられぬ返事をして男は階段を上がっていく。一室に残っていたマティウスは緩みかける頬を何度も直そうと手をやり、その度に肌を汚らわしい血の赤で染めていた。
 遂に長年追い求めていた物の所在が掴めたのである。胸が少年のように弾んでしまう。マティウスは必要なものだけを粗方集めると、死体をそのままに自らも階段を上っていく。この研究所はどの道放棄する予定だった。中で今後何が起きようとも知った事ではない。必要な知識は全て頭の中に入っているのだから。
 階段を上り終えて、マティウスは研究所内を駆け回る魂無き弟子らを急かすように手を叩いた。

「急げ急げ。時は待ってくれんぞ。誰よりも早くに向かわねばならん!雑多な者共に後れを取るような事があってはならんのだからな!」

 彼の言葉に反応してか、部下等の脚は更に早くなり、見る見るうちに出立の準備が整っていった。マティウスは研究所を出ると、優雅な輿の横に並ぶ弟子らを見据えて言う。

「準備は全て終えたか?」『はい、マティウス様』
「荷物」『よし』「輿」『よし』「おやつ」『よし』
「うむ、完璧な返事だ。では出発するとしようぞ」

 弟子らが配置につくと、マティウスはどっしりと輿に乗っかって一息を吐く。研究所が山麓の目立たぬ所に建てられているため山風が冷たい。死体を再利用した傀儡ではまだその辺の
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