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王道を走れば:幻想にて
第四章、その8の1:示す道
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リタから菓子を貰えるぞ。エルフ領土の麦を使ったパンに、甘い苺のジャム。少し苦みを残したジャスミンティー付だ」
「よぉっし!ちゃっちゃと準備するぞ!んで、何時から張り込むんだ?」「今からに決まっているだろう」「今御昼なんですけど!」「サンドイッチがある!ジャム付きだ!それで我慢しろ!」「我慢する!!」

 余りにも快活に且つ素直に返されてしまい、ユミルは思わず吹いてしまった。そして、こういう奴は皆の予想を裏切る活躍をするものだと思い返す。勿論、良い方向での活躍だ。
 緩い凩が吹く中、二人の人間はエルフの森の中へと姿を隠した。夜半の闇が訪れるまで辛抱強く待つ。それが状況の不利を覆すための、小さな一手であった。


ーーーーーーーーーー


 一匹の羽虫が一面真っ暗となった森の中を自由気儘に飛び、ぽつんと建っている住居を掠めながら窓の縁に留まり、人にとっては煩わしい鳴き声を立てる。彼らにとっては重大なものに違いないのかもしれないが、環境の変化に敏感な人間にとっては少しの雑音でも気になってしまうのだ。些末な事に気を向ける程余裕が無いのならば話は別となるのだが。
 隣接している厩舎で馬が地面を軽く蹴る音がする。思考の波に埋もれていたキーラがそれに反応して頭を俄かに上げた。

「イル=フード様。あなたは一体何を求めていらっしゃるのです?森の安寧ですか?それとも、権力の維持ですか?」

 考えの果てに巡ってきた有り得ぬ発想を下にキーラはそう呟くが、しかし言ってすぐに頭を軽く振った。幾らなんでも馬鹿げた言葉であった。森の為政者にとっては安寧の構築こそ権力の維持に繋がる事である。両者を切り離して考えるのは青二才のやる事であった。
 詰まれている書物などの資料を横に除けて眉間によった皺を解そうと指をやっていると、目前にソーサーに乗せられたコップが置かれる。香りの良いハーブを濾した茶が注がれており、目に優しい淡い緑の湖面を揺らしていた。キーラの前に茶を置いたリタは、優しく彼女に言葉を掛ける。

「キーラさん。そうキツイ表情をされてはまとまるものもまとまりませんよ。ほら、御茶を用意しましたので、御一服を」
「・・・ありがとうございます リタさん」「・・・まぁ、私も心配なんですけどね。リコが一緒に付いていくって聞かないものですから」
「『盗賊退治に一役買いたい』、でしたっけ?」「ええ。姉の心配も知らないで・・・本当に一直線な子なんだから・・・」
「きっと皆が守ってくれますよ」「当り前です。守らなきゃ最初から承知など致しません」

 彼女らが話しているのは、盗賊の斥候らを討伐しに行った調停団の仲間の事である。ユミルや随伴してきた兵士達に加えリコまでが参戦しているのだ。「非戦闘員なんだから無理は止めなさい」という姉の説得に応じず、手助けしたい
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