番外編
青騎士伝説 前編
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その表情は憔悴しきっている。
何か彼から言ってくれるかと待つが、ファーは顔を上げすらしない。
仕方なく、自分の方から口を開いた。
「……使った《牢獄結晶》は三つでしたね。お譲りしましょう」
表示したトレードウィンドウがOKされる。
その動作を行う間すら、彼は俯いたまま行っていた。
「っ……」
止めたかった……いや、止めるべきだった。
もうこんな無茶は、馬鹿なことはよせと言いたかった。
(しかし彼は、到底聞きはしないでしょうね……)
シンカーは理解していた。彼はまさしく、「亡霊」なのだ、と。
全ての敵を排除し、駆逐するまでは決して止まらない、生きた屍だ。
鎧の下に着こんだ厚手の漆黒の衣は、毒や麻痺に対して異常とも言えるほどの耐性を高める激レアのドロップ品。鎧に付けられた宵闇色のマントは、『HP表示を周囲のプレイヤーから隠す』という、使い道のないどころかパーティープレイでは邪魔にしかならない……しかし敵にHPゲージを見せないという、恐怖を煽る作戦においては有効なアイテム。首に掛けられた金色のロザリオは、『幸運』値を大幅に高めるマスターの《細工師》が最高級素材を用いて作った作品。
そして『青騎士』の生命線である、顔の右半分を覆い隠す仮面状の『名前詐称アイテム』……《ペルソナ・オブ・クラウン》……道化師の仮面。どれもこれも、シドを始めとした『冒険合奏団』の面々の獲得品として倉庫に眠っていたのだと聞いた。
(シド君が……『冒険合奏団』がこれほどのワンドロップアイテムを蓄えていたとは……)
その、特殊な効果を持つ様々なアイテムを組み合わせることによって、HP不可視、名称不明など数多くの謎を持つ『青騎士』の型が作り上げられた。そしてその型に、「ソラの死」という復讐心が流し込まれることによって、その騎士は動きだした。
(彼は、『笑う棺桶』が生み出した『冒険合奏団』の亡霊ですから……)
しかし、止めることはできない。
彼が拒む拒まない以前に、自分からそれを言い出すことができない。
そのことを思い、心の中でシンカーは深く溜め息をついた。
自分の率いるギルド、『アインクラッド解放軍』にとっては、彼の行動は非常に都合がいいからだ。今現在、軍はある男の台頭によって非常に苦しい……というか、不安定な状態にある。自分の発言力が失われつつあるくらいならどうでもいいのだが、その煽りを軍の中枢部はおろか一般プレイヤー、果ては街中の全てのプレイヤー達までが受け始めているのだ。
そんな足元が覚束ない状態では正直、『圏外』の治安維持、犯罪者の取り締まりなどまではとても目を向けていられない。その点『青騎士』は軍が売っている《牢獄結晶》を
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