番外編
再びの『合奏』を求めて
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「……っ……」
タンっ、という軽やかなな音が、薄暗い朝の澄み渡った空気を貫いた。聞きなれない者にはなんの音かわからないだろう音だが、すでにこの音を一年以上も聞き続けたレミにとっては実に耳に慣れた音だと言えた。
―――刃先を持つブーメランがマトに食い込む音。
「……」
いつもであればこの音は、自分の腕の確かさを教えてくれる音であり、戦いへと赴く自信を持たせてくれる音だった。しかし今は、その音が重くレミの心に圧し掛かっていた。いつもの無表情が歪むほどに引き締められた唇は、現実であれば血がにじむほどであったろう。
「っ!!」
と、次の瞬間。
彼女の体は大きくつまずき、頭から地面へと打ちつけられていた。
◆
(―――当たらない)
そのことに気をとられた瞬間、私の体は大きく吹き飛んで、顔面から地面に擦りつけられるように転倒した体は、かなりの勢いで走っていたせいで体が大きくバウンドして転がる。ここが『圏外』だったら相当量のダメージを受けただろうし、現実世界だったら命を落としていたかもしれないが、ここでは問題ない。
二度三度頭を振って意識をはっきりさせ、再び準備に取りかか……ろうとして、もう周囲が明るくなりつつあることを知った。
(……まだまだ、こんなんじゃ足りない)
嫌な感覚の残る頬を擦りながら起き上がり、眼前の的を見つめる。そこには確かに、一本の刃が深々と的の中央を貫いている。今までであれば、それは自分にとって十分な成果だったと言えるだろう。
けれども、今の自分は、それでは足りないのだ。
(……どこで、間違ったか……)
ちらりと見やる、的の周囲。
刺さったものよりはるかに多い数の刃が、無残に転がっていた。
(……もう、ちょっと、再計算が必要……)
今までの自分ならばありえないその惨状に、眉をひそめる。
この『新しい試み』を始めたときから覚悟はしていたことだったが、こうして自分の酷い命中精度をまざまざと見せつけられるのは正直いい気分はしない。普段の自分であれば三日と持たず投げ出していただろうと思わせる光景だと思う。
だが、やめられなかった。
この徒労としか思えない朝の訓練を、自分はもう一か月も続けていた。
それはつまりは。
(もう、一ヶ月も経つんだ……)
あの事件から、一ヶ月が経ったということだ。
そう言うとはるか遠い昔の様だが、自分としてはあっという間だったようにも思う。
(さて、と。帰ろう……。家(・)に)
ソラとの別れから、一ヶ月。
私は一人だけ、まだギルドホームで過ごし続けていた。
◆
私は、知っていた。ソラが、遅かれ早かれ
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