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怨時空
第五章 妻の自殺
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て夜が明けると逃げるように家を出たのである。

 高円寺の母親の元に身を寄せて、体の回復を待った。体調が戻るのに1週間かかった。
その間、母親は何があったのかしつこく尋ねたが、桜庭は固く口を閉ざしていた。眠気と
それに続く悪夢から開放されるのをひたすら待つしかなかったのだ。
 体調が整うと、会社に恐る恐る顔を出した。すると矢上が飛んで来た。
「部長、どうなさったんです。お休みは確か今週一杯でしょう。仕事のことでしたら、電
話して頂ければ、私が対応しておきましたのに」
この言葉を聞いて、騙されていたことをはっきりと思い知らされたのだ。結局、桜庭は首
になどなっていなかったし、山口の企画を大成功させ、二ヶ月の特別休暇をとっていたの
だ。その二ヶ月の間にあの悪夢がもたらされたことになる。
 秘書が応接テーブルの上にコーヒーを置いて出て行くと、桜庭は椅子から立ち上がり、
ソファに移ると、どっかりと腰を下ろした。ふーと長い息を吐くとともに胸を撫で下ろし
た。そして、おもむろにポケットから携帯を取り出し、電話帳のそのナンバーを押した。
 桜庭は、探偵の近藤に事情を話し、その後の調査に当らせたのである。数日後、近藤
から連絡が入り、例の喫茶店で待っていると言う。すぐに駆け付けると、いつもの席でに
やにやと笑いながら待っていた。桜庭が腰をおろすと、挨拶抜きで唐突に話し始めた。
「桜庭さん、命拾いしましたね。やはり、桜庭さんには5件、合計3億5千万円の保険金
か掛けられ得いましたよ。まったくあの女も大した玉だ」
「それと、警察の方はどうです。私が妻を殺害したと疑っているのは本当なのですか?」
「いや、その点は全く心配ありません。あそこの署長は知り合いだから、すぐに調べてく
れました。あれは、自殺以外ありえないという結論のままです。それより、あの家の所有
権が移転されてます。あの女、ケツに火が点いて、逃げ出したってわけです」
「保険会社の方はどうなっています。もし、保険がそのままであれば、私は命を狙われる
可能性がある」
「ええ、そっちの方もご心配ありません。保険会社にも話を通してあります。2度も保険
金を毟り取られたわけですから、保険会社の方も必死で彼女の行方を探していますよ」
これを聞いて、桜庭の心にようやく安堵の思いが広がり一挙に肩から力が抜けた。
 そして飯島のたどり着いた結論は、泉美を殺したのは香子だということだ。香子は城
島が狛江に泊まり寝入るのを見届け、後楽園のマンションに向かった。そして泉美に電話
した。桜庭がマンションの屋上から飛び降り自殺すると電話してきた、何とかして欲しい、
と。そして屋上に現れた泉美を、待ち構えていた京子が突き落とした。
 桜庭はそのことを死ぬまで胸にしまっておこうと決めた。
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