第四章 決意
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させる人間。それが泉美だから
だ。自殺など考えられなかった。
桜庭はマンションを売って、香子の屋敷に移り住んだ。木の香りに満ちた豪華な屋敷、
若くて美人の妻、まるで夢のような生活だった。子供はすぐになついた。香子との新婚生
活は刺激的で、屋敷の門をくぐった時から下半身が心地良く疼く。
泉美の言っていたことも経験した。香子は家事が嫌いだった。食事はつくるものの、
後片付けと皿洗いを桜庭にせがんだ。
「お願い、ねえ、お願いよ」
そう言って哀願する香子には、確かに逆らい難かった。何度か繰返して、とうとう後片付
けは桜庭の仕事になったのである。
哀願する香子の顔を思い浮かべ、思わず吹き出した。あれが、泉美の言っていた人を
自由に動かす不思議な力なのだと分かって可笑しかったのだ。桜庭は皿をスポンジで洗い
ながら声を出して笑った。居間の方で声がする。
「ねえ、何を笑っているの。ねえ、どうしたの」
「何でもないよ。ちょっと思い出し笑いをしていたんだ」
「何よ、気持ち悪い」
「それより、先に子供達を風呂に入れたら。さっき、風呂のスイッチを入れておいたから、
もう沸いているぞ」
「何言っているのよ。食べたばっかりでお風呂に入ってはいけないのよ。お風呂に入ると
血液が体全体に回って胃の方が手薄になって消化不良になってしまうの」
「ほう、そうかいそうかい。分かりました、分かりました。ゆっくり休んでから入って下
さい、お、く、さ、ま」
そう言いながら、桜庭は幸せを噛み締めていた。心の中で泉美に語り掛けた。死んでくれ
て有難う。お前の分まで生きてやるよ、と。
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