暁 〜小説投稿サイト〜
怨時空
第四章 決意
[5/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
、終わりだ」
泉美が素っ頓狂な声で答えた。
「どうして、何か失敗でもしたの。いったいどうしたと言うのよ」
「山口先輩に、してやられた。俺の企画を蹴って電通に鞍替えしやがった。俺は赤っ恥を
かかされたんだ。ちくしょう、山口の野郎。殺してやりたい」
「それで左遷というわけ? 」
「ああ、その通りだ。経営陣も期待していた企画だ。もう、俺は死ぬっきゃない。福岡支
店なんて真っ平だ」
「私は福岡行ってみたいわ。福岡に支店を出すのよ。いい考えだわ。違う所で生活するの
も悪くはないもの」
「冗談じゃない。九州に左遷されて戻ってきた奴なんていない。支店とは名ばかりの10
人たらずしかいないし、それにもましてせこいビルだ。生きがいも糞もない。小さな仕事
を御用聞きみたいに取ってくるだけだ。くそ、冗談じゃない」
 桜庭はカバンを投げ捨て、玄関に取って返した。エレベーターに乗って一階のジョナ
サンに直行だ。動悸が高鳴る。上野はどうしているだろう。そのことばかりが気になって
呼吸が苦しくなる。ジョナサンでコーヒーを注文する。そして携帯で上野にサインを送る。
 呼び出し音を三回鳴らして切る。ジョナサンで席を確保したという合図だ。そして、
泉美に電話を入れる。
「もしもし、俺だ」
「どうしたの、もう酔いが冷めたの」
「いや、そういうわけじゃない……。そうじゃない……。と言うか……俺はもう駄目だ。
このまま、死ぬ。この屋上から飛び降りて死ぬ」
「あんた、冗談言っているんでしょう。いい加減にしてよ。もう眠るんだから」
「ああ、分かった。あばよ、またいい男を捕まえろ。じゃあな」
そこで電話を切った。後は待つだけだ。じっと春日通りに面した窓に目を凝らす。
 じりじりと待った。目を凝らした。塵一つ落ちては来ない。20分ほど経ったろうか、
ふと、上野がジョナサンの入り口に立っているのを見て、桜庭はぎょっとなった。上野が
桜庭を見つけ近付いてくる。凝視する桜庭の目には、その歩みは、まるでスローモーショ
ンのように映った。「いったい何が起こったというのだ」桜庭が心の内で叫んだ。
 席に着くなり上野が声を殺して言った。
「桜庭、お前の女房は屋上に来なかった。俺は15分待った。だが、これ以上待ったとこ
ろで来るはずもない。だから非常階段で降りてきた。だがな、桜庭」
ここで言葉を切り、桜庭の目を覗き込みながら続けた。
「約束は約束だ。金は返さん。お前はこう言ったはずだ。不慮の事故が起きて殺せなかっ
たとしても、それはそれで仕方がないってな。お前の女房が来なかったというのは、これ
は不慮の事故だ。お前の女房は、自分で考えているほど、お前のことを心配していなかっ
た」
俯いたまま、弱弱しい声で答えた。
「ああ、分かっている。金のことはそ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ