第四章 決意
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は、
上野の口の軽さだ。絶対に秘密は守ると言っているが、これが信用ならないのだ。
上野は気が弱く、力もない。もしかしたら力なら泉美の方が強いかもしれない。その
上野が脅迫者にならないとも限らないのだ。報酬の一千万円など、すぐに使い切ってしま
うだろう。その後が問題なのだ。
巷で話題になっている、4、50万で殺しを請け負う東南アジア系の殺し屋とのコネ
クションはないが、いずれ手蔓を探す必要がある。上野が脅迫者に豹変する前にコストの
安い殺し屋見つけ出し、そして上野も殺す。桜庭はそう決意した。
実行の日は、来週の金曜日だ。手はずはこうだ。桜庭はいつものように午前零時に帰
宅する。そして、今日のように屋上で酔いを醒ますといって部屋を出る。屋上には行かず
1Fの24時間営業のジョナサンに入る。そこで酔い覚ましのコヒーを飲む。
桜庭が携帯で泉美を屋上までおびき寄せる。屋上には桜庭の靴が揃えて置いてあり、
それを見て泉美は桜庭がビルから飛び降りたと思い、手すり越しに下を覗きこむ。上野は、
その後ろから近付き用意したブロックで後頭部を殴打し、靴を脱がせ、屋上から突き落と
す。そして桜庭の靴を泉美のそれに置き換える。
桜庭は、今か今かと窓越しに春日通りを見詰めている。そこに、どさっと人間が降っ
てくる。そこで「おい、人間が上から降ってきた」と騒ぐのだ。何人ものアリバイの証言
者と店を出て、遺体を取り囲む。ふと、気付く振りをして遺体にすがりつき、「何故だー、
泉美― 」と泣き崩れる。これほど完璧なストーリーはない。桜庭は自殺の目撃者なのだ
から。
その日はとうとうやってきた。朝から何も手につかず仕事どころではない。時間をも
てあまし、苛苛と過ごした。仕事が終わり、飲んで帰らなければならないのだが、行く先
はいくらでもあるのに、今日に限ってどこも気が進まない。
桜庭は、気を静めるために歩くことにした。東銀座から晴海へ、晴海から銀座へ、ど
こをどう歩いたか記憶にない。酒の自動販売機を見つけると、ワンカップを買って一気に
飲んだ。へべれけになるまで飲みまくった。
自宅のある後楽園まではタクシーを利用した。泉美は起きているだろうか。起きてい
ればそれはそれでいい。寝ていれば酔った振りをして起こす。前後不覚になって、もしか
したら抱いてくれるかもしれないと期待を抱かせるのだ。
そして、いつものように屋上で酔いを醒ましてくると言う。今日は泉美を誘うか台詞
も考えていた。ドアベルを鳴らす。どさどさという泉美の足音が聞こえる。どうやら起き
ているらしい。ドアが開き、ふてぶてしい泉美の顔が覗く。
桜庭は、叫んだ。「おい、俺の人生もこれで終わりだ。福岡支店に左遷が決まった。
ラインから外されたんだ。もう
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