第四章 決意
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また男の声で子供の事故を知らせる電話まであったと言う。明
らかに泉美の仕業であり、その行為はまさに常軌を逸していた。
或る晩、桜庭は会社を一歩出たとたんぴんときた。見張られている。泉美か、或いは
泉美の雇った私立探偵か。そのまま、香子の家に行く予定をすぐさま変更した。下請けの
製作会社に電話して担当を呼び出し銀座のバーに直行した。
その店のトイレで香子に電話を入れた。香子はうんざりしたような声で言った。
「貴方の奥さんは異常よ。今日だってお寿司が10人前届いたわよ。何とかして、もう耐
えられない。警察に調べてもらったけど、携帯はプリペイドカード式を使っているらしく
って、証拠がつかめないらしいの」
「分かった、しかし、『香子が言っていたけど、とんでもない嫌がらせをしていって?』
とは聞けないよ。いったい何と言って、あいつを問い詰めたらいいんだ」
「簡単よ、既に別れたけど、元恋人から相談されたって言えばいいじゃないの。私とは別
れたんでしょう、一ヶ月も前に。だったら、その人から電話で相談されたって言えば問題
はないはずよ」
「そんな嘘を言っても始まらない。恐らく、俺とお前がまだ続いていることを知っていて、
意地になって嫌がらせをしているんだ。お前が疲れ果て、俺を諦めるよう仕向けている」
「そんな事出来ない。貴方を諦めるなんて考えられない。何とか離婚できないの。お金な
ら私が都合つけるわ」
「いや、無理だ。いくら金を積んでも、マンションを譲るといっても絶対に離婚届に判は
押さないだろう」
「それじゃあ、どうするの、私はどうすればいいの。一生、日陰者で、あの人の嫌がらせ
に耐えていかなければならないの」
「分かった、何とかする。だからもう少し待ってくれ。何とかするから」
「何とかするって、何をどうすると言うの。ずっとその繰り返しじゃない。一向に事態は
変わっていないわ。何とかする、待ってくれ。その言葉をもう何度聞いたと思っているの
」
「そう責めないでくれ、まさか殺すわけにはいかないだろう」
こう言った瞬間、桜庭はごくりと生唾を飲み込んだ。殺すという言葉にリアルな響きがあ
った。香子も黙り込んでいる。桜庭は頭を激しく振ってその思いを心の奥底に閉じ込めた。
そして自分でも驚くほど苛苛した声で言った。
「とにかく、今日は行けそうもない。それに、何とかする。何とかするつもりだから、も
うこれ以上何も言うな」
一瞬、香子は息を呑み、桜庭の怒りをやりすごした。そして静かに言った。
「分かったわ。今日は会えないのね、そのことは諦めるわ。それに、今日は貴方を責めす
ぎたみたい。本当に、御免なさい」
そう言うと、受話器を置いた。桜庭は携帯を見詰め、大きなため息をついた。見ると便器
に吐しゃ物がこびりついて
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