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怨時空
第三章 暗い過去
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間がかりで崖に
たどり着いた。トランクから少女の死体を引きずり出し、二人で崖の上まで運んだ。何度
も躓き、死体を放りだした。中条は泣いていた。桜庭は泣きたい気持ちを抑えた。
 崖上に立ち、底を覗き込んだ。真っ暗で何も見えない。少女の運動靴とバッグを岩の
上に置いた。死体が上がらなければ自殺と判断されるだろう。桜庭が言った。
「さあ、やっちまおう。これで全てが終わる」
「桜庭、これで本当に全てが終わるのだろうか。俺にはそうは思えない」
「もう何も言うな。今朝あったことは、今日かぎり忘れるんだ。それに、いいか、俺たち
の部屋に少女がいたことを知っているのは、俺たちだけだ」
「分かった、分かったよ」
こう言って、桜庭は少女の脚を掴んだ。待っていると、中条がのろのろと立ち上がり、両
手で少女の頭を持ち上げた。二人は崖の上から、声を合わせ死体を放り投げた。鈍い音が
何度も響いた。肉がひき裂かれ、骨が砕ける音なのだ。二人はその場にしゃがみこんだ。
 しかし、遺体は一週間後に海岸に打ち上げられた。新聞の片隅に載った捜査本部設置
の記事を東京で見て、二人は震え上がった。しかし、捜査の手はとうとう二人には及ばな
かったのである。
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