第二章 疑惑
[4/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
手、誰だったと思います?」
「分からないから貴方に頼んだんですよ。いったい誰なんです」
「そう、急かさずに、まず、写真を見て下さい。幸い同業者が、処分せずに残していまし
た。でも、まさかこんなことが……」
桜庭は笑いながら答えた。
「何が偶然だと言うんです。まさか女房の相手が中条なんて言うんじゃないだろうな」
写真を手にして視線を移した瞬間、その表情から笑いは消えていた。目を剥き、あんぐり
と口を開け、写真を見詰める。そして視線を近藤に。苦笑いしながら近藤が口を開いた。
「仰る通り、相手は中条さんでした」
その夜、妻の泉美は、10時過ぎに帰ってきた。ブティックは8時閉店だから遅いわ
けではない。桜庭は居間のソファにどっかりと座った泉美の前に写真の束を投げた。泉美
はすぐさま、写真を手にとってじっと見入っている。その目に涙が滲んだ。桜庭は数年前
に思い描いたストーリー通り、ここぞとばかりに叫んだ。
「このあばずれが、よくも俺を裏切ってくれたな。まさか、お前が不貞を働いていたとは
思いもしなかった。しかも、相手は俺の親友だった」
桜庭は怒りを込めて睨んだ。しかし、浮気相手が死んでしまっているので、迫力に欠ける
が、それはいたしかたない。泉美は写真から目を離し指で涙を拭うと、開き直って怒鳴り
返したきた。
「あんただって私に恋人がいたことは知っていたじゃない。でも、あんたが見たとおり、
彼は自殺してしまった。あれからもう一年になる」
怒りの顔はしだいに崩れて悲しみのそれに変わった。その目から涙が溢れた。何度もしゃ
くりあげている。ここで同情してはいけない。桜庭は怒りを奮い立たせた。
「でも、そいつが俺の友人だってことは分かっていたのか?」
「いいえ、貴方が、友人が自殺したって言って帰ってきた時、名前を聞いて驚いたわ。ま
さか、貴方の前で泣くわけにはいかないし、まいったわ、あの時は」
泉美は悪びれる素振りもみせない。桜庭は沸き起こる怒りを抑えるかのように、大げさに
肩で息をし、荒い呼吸を繰り返した。そして、無理矢理、怒りを爆発させた。
「ふざけるな、この野郎。許さん、絶対に許さん。離婚だ。もう沢山だ。お前の顔など見
たくもない。出て行け。さあ、早く、この家から出て行くんだ」
不貞の証拠をつきつけられ、離婚を申し渡されたのだから、泉美が出て行くのが当然なの
だ。裁判で争っても結果は同じである。
泉美は俯いて、肩を震わせている。どうやら泣いているようだ。桜庭は、既に固く決
意していることを示すために、顎の筋を強張らせ、目を閉じて腕を組んだ。その時、桜庭
は泉美の異様な視線に気付いた。薄目を開け盗み見ると、その目は笑っている。口が割れ
唸るような声が漏れた。
「ずるい男だ。全くずるい男だよ。お前
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ