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弱者の足掻き
十二話 「蟲」
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れて白を見る。
 ざわりと風が吹き、冷たい空気が白を撫でる。腰まで水に濡れた白は一瞬、見過ごしそうなほどな間だけ辛そうに眉をひそめる。そして丹田……腹部よりも下に、揺れる水面に。冷えた場所に、無意識にか白の手が動く。

 それで分かってしまった。
 解って、しまった。
 
「あ、は……アヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!」

 狂ったように。けたたましく。
 ガリガリガリガリと頭を掻き毟り、湧き上がるナニカを抑えるように、吐き出すように嗤う。
 虫が、眠り忘れ凍っていたはずの虫が、脳裏で酷く楽しげに泣く。
 そうか、そういうことか。そういうことなのか。
 今更に気づくか。ずっと分かっていたはずなのに、今になって思い知るのか俺は。
 どれだけ、目を逸らし逃げてきたのだ。言い訳を重ねてきたのだ。
 自らの無様さを再度、見せ付けられる。

 今すぐにでもこの頭蓋を切り開き、脳の虫を引きずり出し一緒に泣きながら嗤いたい。
 それを抑えたのは目の前の白で、船に残る友人たちの姿。
 嗤う自分を驚愕の目でみる視線に、俺は嗤うのを止める。

 舟から降りようとする友人たちを手で制し、濡れたシャツのまま渡された服を羽織る。
 止めようとする白を無視し、そのまま舟を浅瀬まで、船底が底にこすり動きづらくなる所まで引きずり、降りてくる友人たちを待つ。
 渡されたズボンを濡れた下着の上から履く。何か言いたそうで、けれど何を言えばいいのか迷う友人たちに俺は帰ろうと告げる。見上げた空はもう暗い。
 返事が来る前に勝手に俺は歩き出す。慌てたように、足音がついてくる。

 黙々と、帰り道を歩き始める。
 隣に来た白が俺の腕を掴む。掴み、揺さぶられてやっとその事に気づく。

「イツキさん、街に着いたらすぐに医者に行ってください! 流石にマズイです。死んで……ッ、死んでしまいます」
「行かねぇよ。体が冷えただけだ。家に帰ったらすぐに風呂にでも入って寝るよ。それで十分だ」
「そん、な……駄目です。正気を欠いています。冷静になって――」

 その言葉にまた嗤いそうになる。だが、今それをしては本気でおかしいと思われる。抑え、白の腕を引き剥がす。

「俺は酷く正気で冷静だよ。全部分かってる。お前の方こそ体調悪いんだろ? 医者いけよ」
「いえ、僕の方は平気で」
「平気じゃねぇよ。隠せてねぇ。少なくとも『それ』は、俺とおっさんじゃ分からない。医者にいけ。命令だ、切り捨てるぞテメェ」

 街に入る。暫く進み、医者の方へ行く場所の分かれ道で止まる。黙ったまま動かない白に、ああそう言えば、と懐から財布を出して放る。

「それで足りるだろ。残りは好きに使って帰ってこい」
「ッ――ちが、そういう訳では」
「さっさと行けよ。体調悪いんだろ?
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