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弱者の足掻き
十二話 「蟲」
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へと上がり顔を水上に出す。
 下の世界と違い、上は見える世界が雲泥の差。心配げにこちらを見てくる友人たち。泣きかけていた少女は呆然とした瞳を向けている。
綱は船の頭に括りつけたらしい。これなら問題ないだろう。

「泳いで引っ張る。まあ、これくらいの人数なら時間はかかるが少しずつ進めるはずだ。現状、これが一番早い」

 返事も聞かず背を向ける。
 水の冷たさが煮詰まっていた頭を凍らせてくれたようで酷く軽い。深く息を吸って目を閉じ、チャクラを練る。これなら、バレない。
 意識を手に、足に。思い描くのは渦と、そこから押し出されていく力の奔流。いつもの鍛錬のようにチャクラを集め、水の流れを作る感覚を体に刻む。確かな実感を得ると同時、それを維持したまま泳ぎ始める。
 ただの子供一人分の推進力ではない。綱が伸びきり俺の体にかかる確かな重量。しかし、ゆっくりとだが舟が動き始める。

 両手両足のチャクラの維持。それ以外に割く思考の余裕など俺にはない。白とは違う、そんなに器用ではない。
冷たさが刻一刻と感覚を奪い、まるで自分の四肢で無いかのようになっていく体を動かし無心で霧の中を泳ぐ。
 ああ、楽だ。虫が泣き止んでいる。酷く、静かだ。
 
 冷たさが熱さに変わり、油の切れた機械人形のように動きが誰の目にも鈍くなってきた頃、霧の先に岸が見え、足が下についた。
 既にどこにあるのか、何を踏んでいるのすら分からない足で底を踏みしめ前へ。余りに緩慢な動きに意識と動作がズレ、何度も顔を水に付けながら浅瀬につく。違和感を感じて足を止め見回せば水面が腰下の辺りにまでなっている事に今更気づく。ああ、ここまで来ていたのか。

 子供にこの冷たさはキツイ。腰まで濡れただけでも辛いだろう。もう少し、せめて足元までの場所まで、出来るだけ濡れない場所まで引かなくては。
 そう思い、止めていた足を再度動かそうとすると背後でパシャリ、と水が跳ねる音がした。

「イツキさん!!」

 一瞬間が空き、ああ、白かと気づく。
 どうしたのかと振り返ろうとし、足が動かなかった。気づけば体が傾き水面が目の前にあった。
 ああ、沈むな。
 そう思ったのに、感じたのは柔らかな感触。今の一瞬で近寄っていた白に抱きとめられていた。

「酷い顔色をしています。そんな今にも死にそうな……早く服を」
「悪い、助かった。服、濡らして悪い」

 離れようとしても、すぐには離れられなかった。足が自分のものじゃないようで、支えられてやっと足が戻る。
 戻り、離れようとしたとき――――微かに、本当に微かに、血の匂いがした気がした。

 舟から持ってきた服を渡そうとする白に反応できず、ぼぉっと、すぐに消えてしまったその匂いが何なのかわからず、服を受け取っただけで着ることも忘
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