十二話 「蟲」
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づき、他の奴らには聞こえないように囁いてくる。
「動かしますか? 大体の方角は覚えています」
バレぬように白が指を入れた水面、その水が歪む。渦巻きありえない流れを産み、水の中で小さな渦の球を指先に作る。
チャクラを流しているのだ。一定方向への流れを作り出す程度なら印を結んで術を使うまでもない。けれど、これをすれば確実に怪しまれるだろう。小舟を動かすには指一本程度では恐らく無理で、片手をつける程度は必要のはず。それを隠すのは、これだけ近くにいる他人にはほぼ不可能。バレる事を覚悟しなければならない。
だから、小さく首を横に振る。
「止めろ。バレるのは得策じゃない」
「ですが、気づかれない、となるとロクに動けません。それでは他に手が」
小さく、横で押し殺した声が聞こえた気がした。そして小さく服を掴まれる。
視線を向けた先、少女が俯いて顔を自分の膝で隠していた。俺の服の裾を掴み、自分の体を抱きしめて。その震えは寒さか、不安か。
普通の少女では、限界だろう。きっと、他の皆も。
思うと同時、それがすとんと落ち、自分が何をすべきか理解できた。
動く理由とその必要性さえあるのなら、それ以外はどうでも良かった。
「悪い、離してくれ」
「……」
無言で首を振る少女の指を一歩一本はがし、俺は立ち上がる。
向けられる視線を理解しながら、俺はカジ少年に視線を向ける。
「カジ、そこの綱を取ってくれ」
「……ほらよ」
何をするつもりだ。そんな目を向けながら、けれど言わずカジ少年は綱を俺の方に放り投げてくれる。
「まさか……イツキさん、それな僕が代わりに」
「お前は、さ。一応女の子だから。俺でいいんだよ。俺がしたいんだよ。黙って座ってろ白」
何でもいい。何かをしなければ変になりそうだった。だから、それを奪おうとする白の頭を掴み、立ち上がろうとするのを阻止する。俺の顔を見た白はそれ以上何も言わず、黙って一方向を指差す。
「向こうか。ありがとな」
服を脱いでいく。寒さに厚くしてきた上を脱いでシャツ一枚、下はズボンを脱ぎパンツ一枚になり靴も脱ぐ。そして俺は腰に綱を巻き付け、反対側の端は呆然としているカジ少年に投げ返す。
「そこらに適当に巻き付けろ。無理なら、俺と同じように腰に巻いて舟にしがみつけ」
「ま――」
静止の声が届くよりも早く、俺は舟を蹴って足から水に飛び込んだ。
心臓まで止まりそうな、肌に突き刺さり凍える初冬の水の冷たさ。
どこまでも沈んでいきそうな落下感の中、目を開けると見えるのはそれでも見えぬ水の底と果てのない水域、水面の逆さ蓮華。音のない世界なのに、冷たさで脳裏に突き刺さる静寂の氷の様なキンとした残響。やってきた浮遊感に身を任せ上
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