十二話 「蟲」
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思ってたよ。けど、違ったんだろ。そう思ってたのはこっちだけだったよ。バカみたいだ。勝手にしてろよ。勝手にして、勝手に悩んで死ね」
淡々と、声も荒げず。後ろの奴らに聞かせないように、必死に感情を押し殺した声で、カジ少年はそう俺を罵倒する。
違うのだと、そう言いたい。けれど、何が違うのか。何も言わないで何を察してくれというのか。
否定すれば気を逆撫でる。肯定すればその心を傷つける。それが分かってしまうから何も言えない。
きっと、体に合った心だったなら戸惑いながらも何か言えたのだろう。何故分かってくれないのだと激情に駆られ、あるいは悲しみのままに口を開いたはずだ。大人の心が、周りと合わぬちぐはぐな精神であるが故の欠落。
その背にかける言葉がない。否定も肯定も出来ない。無言が、余計にカジ少年を傷つけると知りながら、言葉が出せない。
白にも何かを隠され、その白にも自らを隠し。そして今、カジ少年にも。今度は、一方的に隠して傷つける。
何があっても隠さねばならないのなら最後まで、死ぬ時まで隠さねば成らぬと、知られてはならないと確かに知っていたはずだ自分は。生まれてすぐ、あの名を呼ばれた日に。自らがいる意味を知った時に。
歪みを直そうと、贖罪を果たそうとした時に誓ったはずだ。なのに自らの力不足で、心の弱さでただ一人の子供にさえ隠せていない。
思えば思うほど頭が痛くなる。虫が嗤いながら脳裏を食い荒らす。このザマがおかしいと跳ね回る。
カジ少年が桟橋で止まる。その横にかけられていた布を剥ぎ取るとそこには一席の小さな小舟があった。二本の櫂と本来岸につなぎ止めておく為の綱、それから釣竿も。
後ろの連中が小走りで寄ってくる。
「おいカジ、それか?」
「ああそうだ。一回湖で船漕いで見たくてさ。興味ないか?」
「前に父さんに乗せてもらったことあったなー。けど漕がせて貰えなかったよ」
「なら漕いでみろよ。真ん中で釣りしようぜ」
「おお、いいな!」
「あ、私にも貸してよ!!」
わいわいと。楽しそうに舟を水辺に引きずって行く友人たちを見る俺の横に白が来る。
「何かありましたか? どこか辛そうですが……体調が悪いなら僕が――」
「大丈夫だよ。ただ、少し冷えただけだ」
「確かにそうですね。弱いですが風も吹いていますし」
見上げた山の上には霧がかかっている。曇り空もその寒さの一員だろう。もっとも、服はある程度着込んであるのでそこまで寒くはない。それは白も同じで、腰周りと重点的にいつも以上に服を着込んでいる。
「おーい、お前らも来いよ!」
桟橋の先まで運び終わったらしい。水にチャプチャぷと舟が浮かんでいる。
呼ばれ、桟橋で待っていた友人たちの元に行く。六人くらいなら楽に乗れそう
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