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弱者の足掻き
十二話 「蟲」
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どり着いた家の扉に手がかかる。明ける前に背を壁に預け、息を整える。見上げた先は雲に埋もれ空は見えず、月は姿を消していた。
 大きく息を吐いて腕を上げて扉を開け中に入るとおっさんが椅子に座りテーブルに向かっていた。手には書類を持ちそれを読んでいるようだ。横に見える徳利は晩酌でもしていたのだろうか。こちらに背を向けておりその表情は分からない。

「帰ったか。最近色々と帰りが遅いな。物騒な噂もあるんだ、ガキなんだから気をつけろ」
「分かって、ますよ。すみません」

 悟られぬよう、何とか声を振り絞る。今、俺はちゃんと声が出せただろうか。
 ここが最後だ。部屋にまでさえ行ければ倒れても、気を失ってもいい。痛みに呻き声をあげてもいい。だから、もう少しだけもってくれと願う。ロクに見えない視界でも道は体が覚えている。だから、頼むから日常を変えないでくれ。あと少しなんだ。

「疲れたので、部屋で休みます」

 ゆっくり足を踏み出す。逆さにさえ感じる天地を確かめ、一歩ずつ。

 だがポツリ、と。俺が僅か数歩さえ歩む前に、おっさんが言う。

「なあ知ってるか。俺とお前があった日。本当はよぉ、俺は数日早く出る予定だった。一人だったからな。お前の話を聞いて予定をずらしたんだ」
「……それは、すみません」

 足を止め返事を返す。そんな俺の返事におっさんは何がおかしいのか笑う。

「気にすんなよ。途中の茶屋で強盗が出た話聞いたろ? 実はよ、あれ俺が最初の予定通り出ていたらちょうど鉢合わせしてたくらいなんだ。命拾いしたよ。それだけじゃねぇ。そっからの道筋で有ったっていう船の故障やら盗賊やらそれ以外も、お前の船酔いとかがなければドンピシャ。まるで俺を殺しに来ているみたいな偶然が、お前のお陰でズレた。寧ろ感謝してらぁ」
「それは……良かったです。偶然って、あるんですね」
「だよなぁ」
  
 笑い、おっさんはその手に掴む書類を俺の方に向けひらひらとさせる。

「ならよ、偶然ついでに教えてくれや。『ガトーカンパニー』ってとこから来たこの話、受けたほうがいいと思うか? なぁおい」
「……ッ!!」

 息が止まるかと、そう思うほど衝撃。何故、今その単語が出る。定期的な聞き込みを欠かしたことは無い。単純な知名度以外の話として一度として上がったことのないはずなのに、何故ここで出るのだ。

「一体、なんの話で……」
「引き抜き、らしい。何でも近いうちに波の国で事業を始める可能性があるから手を貸せと。俺は個人的に貿易業じみたことをしていたからな、その辺りで声をかけられたんだろうな。何せうろちょろされたら目障りになるだろうからな」

――頭がどうとか言って――
 ナツオの言葉。頭、ヘッド。ヘッドハンティング。
 ガトーの事業。思い当た
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