十二話 「蟲」
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我慢するなって。ああ、下濡れてたな。途中で替えでも好きに買っていけよ」
ヘラヘラと笑う俺に白は歯を噛み締めて俯き、拳を握り締める。
それ以上何か言っても無理だと悟ったのだろう。白は財布を胸元にしまう。
「用が済み次第、直ぐに帰ります。待っていて下さい」
「ああ、了解了解」
人並みを掻き分け一目散に駆けていく白を見送り、止まっていた歩みを再開する。
一旦止まったからだろう。持ち上げた足は酷く重く、一歩一歩が辛く感じた。凍えた体に体温がもどると引き換えに、頭の痛みも戻ってきている。それも、前よりもさらに大きく。声とは違うガンガンとした鈍い響きも混ざっている。
痛みに頭を抑える。生乾きの房になっている濡れ髪が指にまだ残る冷たさを伝える。掻きむしった部分がジクジクと痛む。触れた指を見る限り血は無いが、濡れて分からないだけかもしれない。
「おい、イツキ。白にはああ言ってたけどよ、ホントに大丈夫なのかよ?」
「大丈夫だってハリマ。ちゃんと二本の足で歩けている。頭もはっきりしている。体が冷えてるから明日が怖いけどな」
「突然笑い出して怖かったぞ。頭おかしくなったんじゃないのか。辛かった言えよ」
「平気だナツオ。何かあれば全力でこき使ってやる」
「なんだよそれ。まあ、俺もせいもあるから少しくらい聞いてやるよ」
突如後ろからぐいっと掴まれ歩みが止まった所に手が伸び、額を触られる。今の俺には熱くさえ感じる手だ。
「何だカジ少年」
「バカみたいに冷たい。それに顔も青い。無理してたら死ぬぞ」
「心配してくれるのか。ありがたい事だ。ならまずは手を離してくれるか? 早く家に帰るのが今は一番なんだ」
「ッ……ほらよ」
襟を整え再び歩き出す。その横に歩みを早めたカジ少年が並んでくる。その顔は酷く複雑な表情だ。まあ、そりゃそうだろうな。
「ごめん……」
「気にするな。俺が勝手に飛び込んだんだよ」
「舟に乗ろうなんて考えなけりゃ良かった……ごめん。本当に、ごめん」
気にするな。そう言った所で意味はないだろう。本気で自分を責めているところにそんな言葉は意味がない。言えば言うだけ相手を遠まわしに責めてしまう。
悲痛な表情をしているカジ少年に何を言うべきなのだろう。ああ、くそ。頭が痛くてロクな考えが浮かびやしない。
「なあ、何で舟だったんだ?」
「……前にさ、オヤジが乗せてくれたんだ。釣りもした。釣れなくてグチグチ文句言ってたんだけど拳骨もらった」
「なんだそりゃ」
「それで黙って竿握ってた。何もすることなくて、色々どうでもいいこととか考えてさ。水面とか山とか見てたら頭空っぽになってて、何かどうでも良くなって。することなくても暇じゃなくてでも暇で……なんて言ったらいいかな。取り敢えずさ、何
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