暁 〜小説投稿サイト〜
シンクロニシティ10
第十八章
[6/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
。脚ががら空きだ。石田はナイフの間合いを避けるぎりぎりまで一気に下がった。男がナイフを右に薙いだ。
 石田はそれを避け、左に飛んで床に着地した。男はナイフの手さばきに自信があるのだろう。右手をだらりと下げて、無造作に歩をすすめてナイフの間合いに立った。石田の警棒は15センチだが、振り出すと60センチになる。ナイフより40センチ長い。
 男が一気に距離を詰め、右上に薙いだ。首を狙ったのだ。石田は極端な前屈みから、重心を一瞬後足に移して刃先を避けた。同時に真上にあげた警棒を男の首筋に斜めに振り下ろした。男は膝から崩れ落ちた。石田は男からナイフをもぎ取った。
「仁。」
石田が振り返る。晴海が牢屋の窓の鉄格子を握り締め、石田を見詰めていた。その目から涙がほとばしる。石田は駆け寄ろうとするが、ふと思い出し、倒れた男のポケットを探った。右ポケットに鍵が入っていた。
 鍵を開け、晴美を抱きしめた。ティシャツは薄汚れ、ジーンズはよれよれだ。髪はぼさぼさで臭い。ふと和代を抱きしめているような感覚に襲われる。
「きっと来てくれると思っていたわ。何度も夢で見たの。だからへこたれなかった。」
「ああ、もう大丈夫だ。お母さんの所に帰れる。」
「仁、その男、動いたわ。」
振り返ると、男が腰を浮かせている。石田が声を掛けた。
「目覚めたようだな。」
男はそれには答えず、一瞬にして階段横に掛けより内線電話を取り上げ怒鳴った。
「敵襲、敵襲。地下室に敵が侵入した。」
石田はナイフを握り締め、男に近づき首にそれを押し当てた。
「敵襲とは随分時代錯誤な言葉だ。相当焦っているわけか。おい、受話器を置け。」
男は素直に従った。石田が聞いた。
「しばらく地下室のあの蓋を閉めたい。どうすればいい?」
「さあ、知らん。」
石田はナイフに力をこめた。男が言った。
「どうした、サナダムシ。押し付けるだけじゃ駄目だ。ナイフは引くんだ、そうしなければ血は噴き出さない。どうした引くんだ。引いてみろ。お前はその度胸があるのか?」
石田は血の気が引くのを感じた。男は石田がそれを出来ないと分かっている。どうする?迷った。
「確かに、残酷な光景は見たくない。だけど、この程度なら我慢できる。」
石田は男の膝裏に自分の膝頭を思いきり当てた。男が前にのめった。石田は屈んでゆっくりとナイフの刃をじっくりと引いた。男の悲鳴が響いた。石田が言った。
「右足のアキレス筋に続き左足も切ろうか。どうする。」
この男のような筋肉マンにとってアキレス筋を失うことは誇りそのものを失うことなのだ。
「待ってくれ、その箱の陰にあるレバーを左に回せ。」
晴美が駆け寄ってレバーを回した。地響きを伴って床が下り始める。外で何人かの声が響く。半分まで閉まっ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ