第十八章
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を渡り有楽町線要町駅に向かう。しばらく歩いて右に折れた。通りの両サイドでつけていた石田も榊原も何食わぬ顔で歩を早めた。暫く行くとコンビニがあり、男はその手前を左に曲がった。
石田が通りを渡って榊原に追い付き、二人は曲がり角から男を窺った。男は塀の中に入るところだ。塀の中には頑丈そうなビルが建っている。二人は塀に背中をつけ、頷きあった。ようやく、たどり付いたのだ。
二人は通行人を装いゆっくりと歩いた。ビルはコンクリート塀に囲まれ、道路から20メートルほど奥まったところに位置する。門扉はなく、10メートル位の進入路が切られているだけだ。右手奥には焼却炉が見える。
三階建てのビルの一階は駐車場スペースのようで、シャッターが五つ。一つが開いていてベンツが見える。入り口は左側のアルミのドア一つで、恐らく入るとすぐ階段になっている。二階は事務所スペースのようだ。
榊原は小野寺から貰い受けた拳銃をベルトから引きぬいた。石田が問いただす。
「まさか、乗り込もうというんじゃないだろうな。」
「そのまさかだ。奴は俺達に感づいていない。明日は晴美を連れ出す日だから用心するだろう、今がチャンスだ。」
榊原の言葉には子供じみた強がりが感じられた。それは父親を意識してのことだろう。
「馬鹿なこと言うな。いいか、あの二階にも三階にも晴美はいない。」
「何故そんなことが分かるんだ。」
「いくら二階三階に意識を集中させても何も感じない。俺を信じろ。」
榊原は瞬時に石田の言葉を信じた。石田の勘が鋭いのは先刻承知だったからだ。
大学時代二人がリングで殴り合っていた時だ。石田が急にうずくまった。「あの時と一緒だ。和代が死んだ時と同じだ。」とうめいて、その場にうずくまった。その時刻に、石田の両親が事故で死んだと後で知った。
「榊原、いずれにせよ晴美を渋谷に運ぶのはきっとあの男だ。あの男さえマークしていれば晴美にたどり付く。根気よく待とう。」
「しかし、こんな場所でどう見張ればいいんだ。ここで二人が突っ立っていればすぐに怪しまれる。」
「あのベンツを見ろ。あれで晴美を迎えに行き、渋谷まで運ぶのだろう。俺はあの車の後に隠れている。お前はこの近くまで車を持ってこい。何かあれば携帯で連絡する。」
「よし分かった。この拳銃を持っていろ。」
「いいや、この伸縮警棒で十分だ。今日か、明日、奴は動く。奴が晴美に接触する時にこそ拳銃が必要になる。その時まで持っていろ。」
「よし、ここで見張っている。あのシャッターまで走れ。」
石田は開いているシャッターに駆け込み、ベンツの後ろに隠れると榊原に手を振った。榊原はにやりと笑いその場を去った。
思いのほか広い駐車場だ。奥は薄暗くて良く見えないが、車がもう一台置いてあるようだ
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