第十八章
[3/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
えた。一挙に羽振りが良くなった。飯島が気前良く金をくれるからだ。飯島には裏のシノギがあったのだ。それがヤクだと知れたのは、正敏が組長にばらしたからだ。 しかし、飯島にお咎めなし。組長との取引が成立したのだ。
それから上村組も変わった。急に金回りが良くなった。組長は次々と事業を起こし、軌道に載せていった。まるで企業家気取りだ。馬鹿馬鹿しい。飯島が裏で上村組を操っていることを誰も知らない。しかし松谷は気付いた。だから飯島に忠誠を誓ったのだ。
坂本警部のことは最初から疑っていた。飯島は坂本を評してこう言った。「坂本はもともと武士だ。武士が商人のように手を揉んで近づいて来る図は不自然極まりない。奴の額に浮かぶ冷や汗を見たか。それが真実を語っている。」こう言ってにやりと笑った。
麻取りが動き出すと、飯島は松谷に坂本を見張るように指示した。確かに坂本は飯島のシボレーを追跡していた。松谷がそれを報告すると、「やはりな、分かっていたが、坂本の執念はさすがに武士のものだ。」
飯島は、ここ数年時代物の小説にに凝っている。特に池波がすきなようだ。彼に言わせると、日本の武士道は朝鮮半島から伝わった朝鮮文化だという。松谷は飯島が北朝鮮のスパイかもしれないと薄々感じていた。しかし、それに目をつぶっていた。
若い頃、朝鮮人との喧嘩に明け暮れた。何人もの朝鮮人の目に親指をグイとめり込ませ潰した。その朝鮮人と思しき男に今使われている。松谷は何の痛痒も感じていない。飯島の生き様が好きだからだ。飯島はただこう言うだけだ。
「人間は死ねば無だ。ということは、生きているうちに、どれだけ美味いものを食うか、美人を抱くか、いい思いをするか、それに尽きる。そうだろう。」
松谷はふとその言葉を思い出し、「そうだ。」と口に出した。自分がつけられているとは露ほども考えていない。
松谷は急に思い立った。そうだ、あの女もやってしまおう。どちらかというと松谷は男が好きなのだが、女のケツも決して嫌いというわけではない。そういえば洋介も武士だったと思う。松谷はあの洋介を何度も責めた。そして洋介は最後に松谷に逆襲したのだ。
松谷は洋介の反撃に感動した。最後の力を振り絞り、プライドを守ろうと立ち向かってきたのだ。食事の時に与えた割り箸を使ってである。歯で先を尖らせていた。ふらふらになりながら松谷の首に狙いをつけて突き立ててきたのだ。危うく逃れた。
つかの間の恋人に別れを告げ、松谷も武士として振舞った。腰のサバイバルナイフを引きぬき、洋介の頚動脈を切り裂いたのだ。洋介は迸る血を横目で見ても動じなかった。憎しみの目を剥いて睨み続けた。意識が遠のいてばたりと倒れた。感動的だった。奴も男として死んだ。悔いはないだろう。
涙を滲ませ、松谷はアジトに急いだ。山手通り
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ