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シンクロニシティ10
第十八章
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の奢りだ。遠慮なくやってくれ。」
そう言うと昔の仲間は漸くほっとしたように席に着いた。優越感に満たされた。昔子分だった男が近づいて来て言った。
「松谷さんは昔から肝が座っていましたもんね。どっか違うと思ってましたよ。」
 この男が松谷から離れたのは高一の時だ。松谷の残忍さを嫌ったのだ。喧嘩相手の目を親指でえぐるのを目撃して、顔を歪めた。仲間を抜ける時の言い草がいい。「俺はあんたとは違う人間だと思う」と男は言った。松谷はぶちのめしてやった。そいつが擦り寄ってきたのだ。思えば、あの日は一般人として振舞った初めての日といってよかった。
 そうだ。俺は普通の人間ではない。何故なら俺は普通じゃないことを平然とやってのける人間なのだ。男は地上に出ると、再び呟いた。
「もし、飯島さんに出会わなかったら、俺の人生、真っ暗だったなあ。」
 飯島が上村組に姿を見せるようになったのは10年ほど前のことだ。飯島は最初から組長の客分で、待遇も良かった。松谷はその頃、たこ焼屋が唯一のシノギの下っ端で、飯島とは話したこともなかった。たまに、事務所ですれ違う程度だった。
 しかし、松谷は常に飯島を意識していた。この世界では男が男に惚れるということがよくある。最初はそれかと思っていたのだが、どうも質的に異なる。それが恋だと気付くのはずっと後のことだ。
 いつしか飯島は組長の弟の面倒を見るようになっていた。組長の弟、上村正敏はどうしようもない男だったが、飯島は正敏の言うことを何でも聞いた。親しげな二人を垣間見て嫉妬を感じた時もあったが、今は違う。飯島は正敏を利用しているに過ぎないのだ。
 松谷に転機が訪れたのは6年前のことだ。正敏がどじを踏んだ。女が警察に逃げ込んだのだ。覚せい剤使用が露見するところだった。正敏は警察では何とか言い逃れたが、女の存在が邪魔になった。飯島に命令が下った。その時、飯島は助っ人に松谷を指名してきたのだ。緊張する松谷に飯島は言った。
「女は殺す。お前は苦もなくやってのけるだろう。どうだ。」
「ええ、苦もなくやってみせます。」
「よし、今から渋川に向かう。一週間で片をつける。いいな。」
「はい。」
息はぴったりだった。少しの躊躇もなかった。女をさらって絞め殺し、山に埋めた。ただそれだけのことだ。二人目は病院に忍び込んで自殺に見せかけて殺した。飯島は夕飯のために鶏の絞めるように人を殺した。松谷も仕事を片付けるという感覚は同じだった。
 この間、二人の間に何か起こるのではないかという密かな期待は、一瞬にして潰えた。飯島は渋川の女を殺す前に犯したのだ。「お前もやれ」と言われ、萎えそうになるのを、飯島の顔を思い浮かべ必死で果てた。松谷の儚い恋はこうして終わりを告げたのだ。

 飯島の舎弟になったことが松谷の運命を変
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