第十四章
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男として名誉ある死だ。お前とは違う。」
瀬川は最後の声を振り絞った。
「この裏切り者め、地獄に落ちろ。」
バンという音とともに瀬川の声は途切れた。リーダーらしき男の声が
「おい、腰を探ってみろ。その刑事は拳銃を持っているはずだ。おい、気を付けろ。指紋は消すんじゃねえぞ。その拳銃で榊原を撃ち殺す。そうすれば榊原がこの二人のデカと互いに撃ち合って死んだことになる。時間がない。おい、早くしろ、榊原をここまで連れてきて横たえるまで仕事は終わっちゃあいねえ。」
猿渡が振り返り、石川に声を掛けた。
「おい、警部さんよ、よくやった。お前の命は助けてやる。しかし、驚いたな。普通はなかなか顔は撃てないもんだがな。」
と言って、石川の背をばんと叩いた。そして、吼えた。
「野郎ども、榊原は家にいるか、或いは近くまで来てるかもしれねえ。そのつもりで奴を探し出すんだ。」
慌しく動き回る男達を尻目に、石川警部は、ふと右手に握る拳銃に視線を落とした。先ほどまでの手の震えはおさまっている。そして、その先に転がっている血だらけの死体をまるで物を見るように見詰める自分を意識した。
榊原は逃げた。這うようにして逃げた。逃げるしかないと思った。瀬川の砕けた顔が、坂本の無念の顔が浮かんでは消えた。瀬川ーっと心の中で叫んだ。貴様は勇気ある男だった。お前の最後の言葉を忘れない。お前の最後を奥さんに伝える。子供にも伝える。涙が頬を伝う。
膝ががくがくして上手く走れない。我ながら情けないと思いながら必死で逃げた。方向を見失っていた。いきなり強い衝撃が襲った。体が後ろに仰け反った。気が付くと鉄条網が胸に食い込んでいる。用心しながら鉄条網をはずし、立ちあがるとまた走り出した。
自分の車とは反対方向だった。倉庫の扉の死角を選び、暗がりを選んで走った。少し高台になった地点で、倉庫を振り返る。男が7人、倉庫から出てきて3台の車に分乗するのが見えた。榊原は携帯を取りだし、自宅に電話を入れた。なかなかでない。ふと思いたって携帯を切った。
奴等は何もかもお見通しだった。尾久駅前のマンションの男達は明らかに榊原達をおびき寄せることが目的だった。瀬川、坂本、榊原の三人を一人残らず消すつもりだったのだ。リーダ格の男は、瀬川を撃った男を「警部」と呼びかけていた。その警部が手引きしたのだ。
しかし、底知れぬ一連の事件の深い闇を覗き込んだ今となっては、榊原は用心深くならざるを得なかった。ふと、かつての疑問が浮かび上がったのだ。「モンスターは何故洋介君の携帯番号を知り得たたのか」という疑問である。奴等は想像以上に巨大な組織なのかもしれない。この携帯だって危ないと思ったのだ。
さ迷うように暗がりを走り、林を幾つも抜けて国道に出た。100メートル先にセブン
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