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シンクロニシティ10
第七章
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入るための武勇伝を演出したのだ。
 そもそも警察庁のキャリアは警察官ではない。自らは全警察機構の監督、必要な法律の整備、予算獲得、そしてその管理を司るとしている。その僅か500名弱のキャリアがノンキャリアと呼ばれる全国24万の現場警察官の遥か頭上に君臨している。
 彼らは2年という短い周期で現場を経験し出世街道を駆け上ってゆく。警視庁であれば捜査2課、4課はその指定席だ。あの駒田が四課長に就任するという事実に、榊原の理性は制御不能に陥っていた。それに追い討ちを駆けるように小川の言葉が続いた。
「それともうひとつ。今度の総務部長も駒田の系列だ。つまり日比谷東大ラインだよ。君にとって居心地が悪くなるのは目に見えている。どうだ。俺がいるうちに外に出る気はないか?」
榊原の口から思ってもいない言葉が飛び出した。
「いえ、結構です。もし、報復人事があったら辞職します。その覚悟は出来ていますから。決して外に出たくないとか、今の職にしがみ付いていたいわけではありません。敵前逃亡は嫌なのです。」
「しかし、よく考えたまえ。君を欲しがっている所はいくらでもある。そこに行けば、あいつらだって手は出せん。」
「部長、そんなことは一時しのぎに過ぎません。駒田がもし報復人事をするなら、私も報復して刺し違えます。」
「それはどういうことだ?」
 小川が気色ばんだ。榊原の脳細胞は戦闘モードに入っており、既に冷静さを取り戻している。冷静でなければ喧嘩には勝てない。
「では、高嶋捜査四課長は何処に行かれるのですか。」
「警視庁の方面本部長だ。」
「あの方とは親しくさせて頂いていますけど、あの方にも迷惑をかけることになるかもしれませんね。」
「おいおい、いったい君は何を考えているんだ。」
榊原は冷然として席を立った。

 小川は父親の友人などではない。単に接待相手に過ぎなかった。母親も必死だったのだろう。小川が来ると、一オクターブも高い声で出迎え、大柄な父親は体を屈めて卑屈な笑みを浮かべてお酌をしていた。その時の屈辱は今でも忘れられない。
 父親は最終的には田舎の警察署長を勤め上げ、定年退職した。しかし、それが何だというのだ。息子に軽蔑されて本当に幸せな老後だろうか。父親が小川に、丸の内署に息子がいることを年賀状に書いて、面倒を見てくれるよう頼んだのは分かっている。榊原は今その小川に逆らったのだ。
 ここ数ヶ月悩み苦しんだ結果が、これまで後ろ盾になってくれた人との決別だった。中にいる限り流れに逆らうことなど出来ない。少しでも逆らえば組織からはじき出される。掌を返すような冷酷な仕打ちが、手ぐすねを引いて榊原を待ち構えているのだ。そんな事例を何度も見てきた。
 石川警部のあの勝ち誇った顔が思い浮かぶ。薄目を開けて、見下すよう
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