第七章
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った。今日にでも電話しておく。」
「ありがとうございます。僕の番号を言いますので、よろしいですか。」
「いや、その必要はない。この電話に記憶されている。」
「兎に角、僕は窮地に立たされています。よろしくお願いします。」
「ああ、分かった。」
電話を切って、すぐに榊原に電話を入れたが、携帯は繋がらなかった。次に警視庁に電話をいれると、会議中とのことだったので連絡をくれるように頼んだ。
その頃、榊原は総務部長室の深いソファーでごそごそと尻の落とし所を探していた。そのまま座れば、まるでふんぞり返っているような姿勢になってしまう。実際、目の前には小川総務部長がにこにことしながらふんぞり返っている。
ようやく前屈みになる位置を探り当て、背筋を伸ばした。本来、雲上人であるキャリアの個室に、警部補風情が出入りすることなどあり得ない。警察機構において、警部補以下は大阪人の言う“じゃこ”、つまり漁師も捨ててしまう雑魚である。
そのじゃこである榊原がこうしてキャリアと親しく接することが出来るのは、悔しいが父親のお陰なのだ。小川総務部長は26歳で広島県警へ警務部長として着任し、そこで榊原の父親と親しくなり、家にもよく遊びに来ていた。
榊原は当時中学生で、夕飯時に現れ、柔和な顔をさらにほころばせる小川をよく覚えていた。2年たらずでその姿を見せなくなったものの、父親との親交は続いていたらしく、榊原が卒配で赴任した丸の内署にわざわざ訪ねて来てくれた。
それ以来、何かと力になってくれてはいるが、例の一件だけは如何ともし難いらしい。榊原が殴った駒田は小川さえ仰ぎ見る警察庁の幹部の甥っ子なのだ。せめてそのことを知っていたら、榊原も爆発を押さえたかもしない。
小川は運ばれたお茶に手を伸ばしながら口を開いた。
「どうだ、ひさびさの捜査本部は。」
「やはり足が鈍っています。本庁勤めも5年になりますから。」
それを聞くと、小川はにやりとして茶碗を置いた。
「そろそろ、外にでるか?」
やはりという諦めが心を萎えさせ、と同時に、たとえ左遷でもせめて刑事でありたいという渇望が喉元まで駆け上がる。しかし、声には出さずぐっと飲み込んだ。
「君は数々の実績を上げた。誰一人、君以上の実績を上げることなど出来ようはずもない。しかし、私も来年は転勤だ。大阪方面になるだろう。そして、今度の捜査四課長は君のよく知っている男だ。」
顔を上げ榊原がその名前をあげた。
「駒田一郎、ですか?」
「そうだ、あの駒田だ。蛇のようにしつこい男だ。」
ここに至って、石川警部が衆目のなか、榊原を怒鳴った意味を了解した。石川はいち早くこの人事情報を察知していた。だからこそ、あの気の小さな男が思い切った態度に出た。駒田というキャリアに取り
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