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男女美醜の反転した世界にて
反転した世界にて9
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の手をずっと放そうとしない。それどころか、指と指を絡ませ合って、いわゆる“恋人繋ぎ”と呼ばれる形になってしまっているのだけど、多分、白上さんは気づいてはいないんだと思う。電車の中でまでこんなだったので、ちょっとだけ周囲の視線が恥ずかしかったりなんだったり。
 
「……、……っ」
「……」

 一歩一歩を踏みしめるたびに、手と手の間に僅かなズレが生じて、入り込んだ空気がスースーする。
 二人分の手汗が、二人共の手のひらを豪快に湿らせているのだけど、手を離そうという気にはまるでならなかった。
 
「……」
「……」

 不思議なことに、全然嫌じゃない。
 白上さんの方はそれどころではなさそうだけれど。なんというか、この雰囲気というかおもむきというか情緒というか。ただ手を繋いで、帰路を歩くだけのこの行為が、嬉しい。
 幸せ、なのだと。そんな言葉が、自然と頭の中で反響した。
 ――はっとする。

「……っと? あ、赤沢くん?」
  
 唐突に僕が足を止めてしまったものだから、気づかずに歩いていた白上さんが、僕の手に引っ張られるような形になってしまって、つんのめりかけてしまう。

「……」 

 住宅街のど真ん中。
 あの日、“僕が足を躓いて、思い切り頭を打ち付けてしまった”その場所だった。
 普段であれば、何も気になることなどない、こんな風に足を留めてしまうほどの価値はない、そんな地点にて。
 僕は足元に転がっている石ころから、目が離せなくなった。

「どうか、したの?」
「……ん、いや」

 訝しげに訪ねてくる白上さん。どうかした、ということはない。
 実際のところ、なにか深い意味があって足を止めてしまったわけではない。本当に、ふと、『あの時、多分この石ころに蹴躓いたんだろうなぁ』と、その程度の感傷を覚えていただけのことだった。
 ――だから、その後の行動にも、やっぱり深い意味はなくて、

「――ていっ」

 コツンッ、と。つま先でその石ころを蹴っ飛ばす。
 カン、カンッ、コロリと。軽快な音を響かせながら跳ねたその石ころは、道の端、排水溝の中へと吸い込まれていくようにして、消えていった。
 ……。

「……行こう」
「あ、うん」 

 僕の奇行は、しかし白上さんにとっても、何気ない動きでしかなかったようで。
 緊張をほぐした様子はなく、さっきまでと何も変わらない、ガチガチに肩を強張らせたまま、白上さんは僕の横に並んで歩き出した。


 ◇ 

 
「――着いたよ」
「――んぁっ!? う、うんっ!」

 急に息を吹き込まれた風船のように、白上さんは僕の声に反応して背筋をピンと伸ばす。
 ――思えば、誰かを自分の家に招くという経験は、初めてのことだったのだけれど
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