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〜烈戦記〜
第七話 〜前哨〜
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かえった。

『し、しかし黄盛殿。ここまでの距離を彼らはずっと歩いて来たのです。何かしら私達で労いを…』
『豪統殿』

ドスの効いた声で父さんの名前が呼ばれる。

『私の部下はいついかなる状況でも弱音を吐かない訓練をしております。それが兵の精強さに繋がるのです。なので貴方の所の兵士はどうか知りませんが、私の兵士を甘やかす事はしないで頂きたい』

嘘だ。
多分この黄盛という男は父さんが気を回した事に対して、自分がそれを出来なかった事が兵士達に広まるのが嫌なのだろう。
自分はこいつには劣っていない。
気付いてはいたが、ワザと気を使わなかったんだと。

…こんな図体してなんてちっさいんだ。
やっぱり凱雲とは比べられない。

『…むむ』
『豪統様』
『ん?』

父さんがどうしたものかと手を劇招いていると、凱雲が隣で耳打ちを始めた。

『…』

それを見ている黄盛もまた眉間にシワを寄せ始めた。
やばい。
またこの人怒っちゃう。

『黄盛殿』
『…なんじゃ』

父さん…がんばって。

だが、父さんは言葉を発するかと思いきや、黄盛の元に歩み寄る。

『な、なんじゃ』
『黄盛殿、少しお耳を…』
『…?』

馬に跨りながらも父さんに耳を預ける黄盛。
なんていうか、今の一連の行動で父さんに策があるのは目に見えてわかるのに、それに素直に耳を預けてしまうなんて。

『うむ、確かにそうかもしれん…』

案の定、直ぐに陥落したようだ。

『お前ら!有難く思え!ワシの配慮により、今回だけは許してやる!思う存分飲むがいい!』
『『…ッ!?』』

兵士達がどよめく。

『なに、ワシも鬼じゃないからの!気にせず飲め飲め!』
『は、はい!ありがとうございます!』
『黄盛様!感謝します!』
『がははははっ!』

凱雲はさっそく水の手配に取り掛かる。
そして父さんもそれに加わる。
僕は父さんに近づいた。

『…父さん、何て言ったの?』

僕は小声で聞いてみる。

『何、"黄盛殿の情深い人格を知らしめる良い機会ですぞ"とな』

父さんも小声で返してきた。


なんだそれ。





『よう!黄盛!』

水の手配の最中、洋班の声が聞こえた。
…そういえば今日はまだ一回も彼の声を聞いていなかったっけ。
兵士の隙間から声の方向を見てみる。
だらしない歩き方で黄盛の方へ向かっている洋班が見えた。

…最初の時は怖かった洋班だが、今はそれ程怖くない。
なんと言っても、いざとなれば凱雲が助けてくれる事を知っているからだ。
そう思うと僕は溜め込んでいたモノがふつふつと込み上がって来た。
そう、親を馬鹿にされた云々ではなく、個人的な感情がだ。


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