1
[2/2]
[9]前 最初 [2]次話
由もないのではないだろうか。しかも彼自身がその土地に執着している様子もないわけだから、いっそ面倒ならば、相続権を放棄して早々に話を切り上げることもできよう。これは何か別の理由があるぞと、フェルナーは意地の悪い好奇心がむくむくと湧いてくることに気付いた。
「従姉とおっしゃるからには、女性ですね」
溢れた好奇心を巧みに隠して、さも気遣うような口調で、フェルナーは質問の趣旨を変えた。
「そうだが」
そんなフェルナーの変貌に表面上気付いた様子もなく、オーベルシュタインは短く答えた。
「女性だから、会うのが嫌だということはありませんか?」
「……どういうことだ?」
怪訝そうに聞き返す上官に、フェルナーは隙のない笑顔を向けた。
「そのままの意味です。閣下は、女性と会うのが苦手なのでは?」
オーベルシュタインは少し考えてから、色の薄い唇を小さく動かした。
「それほど構えているつもりはないのだがな。幼い時分から付き合いのある従姉であるし、それほど気を遣うわけでもない。なぜこうも気が進まぬのか、自分でも分からぬのだ」
何度目かのため息をつく上官を横目で見やりながら、フェルナーはしばし思考を進めた。この上官は他人の考えや思惑を見抜くことに長けているが、そういう人物は得てして自身の分析が疎かになる。オーベルシュタインも例外ではなかった。おそらく彼自身も気づき得ぬ理由が存在するのだろう。フェルナーは幾種類かの想像をしながら、話を掘り下げることにした。
「その女性は、閣下のことをどう思っているのでしょうかね」
「どう、とは?」
「例えば、閣下を嫌っているとか、反対に好意を持っているとか」
フェルナーの例えに何か心当たりがあったのか、オーベルシュタインは思案顔で答えた。
「彼女の本音は分からぬが、以前、彼女は私の許嫁だった。無論、親同士の決めごとだったが」
オーベルシュタインの返答に、フェルナーはある仮説を思い当たった。隙のない笑みが、人の悪いしたたかな微笑に変わった。
「へぇ。では、その従姉の方は、閣下に想いを寄せているのかもしれませんね」
「それは困る」
強い口調で否定される。即座の反応に、フェルナーは自分の予想が的中したことを悟った。そうだ。上官は従姉が自分に好意を寄せていることを知っている。意識としてはどうだか分からないが、そう感じているのだろう。そして、その想いに応えられない理由があるのだ。
フェルナーは努めてゆっくりと、諭すように言った。
「そう、閣下は彼女の想いに気付きながら、迷惑していらっしゃる。なぜなら……」
一呼吸置いて、勿体ぶるように告げる。
「なぜなら、閣下には他に気になる女性がいるからです」
何気なく机を弾いていた上官の指が、その動きを止めた。
[9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ