十七 感謝のことば
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そう小さく呟いたナルトの顔を横島は見ることが出来ない。ただただ悔しかった。
理不尽な暴力を子どもに振り翳す里の人間も、少しでも九尾の兆しが見えたら幽閉すると断言した里の重鎮達も、誰にも弱さを見せないナルトも、そしてなにより全て知っていながら何も出来ない自分が腹立たしくて遣る瀬無かった。
今にも零れそうな涙を、歯を食い縛って堪えながら、ただじっと床を見つめる。
静寂がその場を包み込む。けれどその静寂をナルトの一言が破り去った。
「ありがとう」
はっと顔を上げる。見上げると、まるで眩しいものを見るように横島を見つめるナルトの姿があった。
「ありがとう」
そう言って破片の入った袋を拾い上げたナルトは横島の腕を引っ張る。
どこにそんな力があるのか、細腕で横島を立ち上がらせたナルトは真摯な瞳で彼を見上げた。
「もう遅い…ハヤテも腹を空かせているだろう。後は俺がやるからお前は屋敷へ戻ってくれ」
割れている窓から外に一瞥を投げ、彼はそう横島を促す。その言葉に再び抗議しようと口を開き掛けた横島は、ナルトの顔を見ると口を噤んだ。
滅多に感情を露にしない子どもが、顔を綻ばせて微笑んでいる。今の会話でどうしてそんな嬉しそうな顔をするのか、横島にはわからなかった。
しばし沈黙が続く。何と声を掛けたらよいのか戸惑って、結局横島は直情のままに言葉を紡いだ。
「…明日。一緒に掃除しよう」
何の飾り気もないその言葉に、ナルトは弾かれたように横島を見上げる。そうして、更に笑みを深めた。
「………ああ。明日、な…」
横島が物置部屋へ入って行くのを見送って、ナルトはふうと息をついた。
はたと周囲を見渡す。荒らされた部屋を見ても彼の心は晴れ晴れとしていた。
(ありがとうなんて………生まれて初めて言ったな……)
演技中によく言うその言葉に対し、実際ナルトは何の感慨も持てなかった。だから、心から感謝の言葉を口にしたのは初めてのこと。
暗部服に腕を通しながら、ナルトは壁の落書へ目を向ける。横島が来る前までこのような事は珍しくも何でもなかった。
だからまるで自分の事のように慨嘆した横島の姿が、ナルトにはとても眩しく感じた。そして胸の内にじんわりとあたたかいものが込み上げ、自然と顔が綻んでしまったのだ。
(けど…なんだか自分を責めているようだった)
ナルトに対してではなくまるで自分自身に憤っているような。強く肩を掴んできた彼の手からそういった雰囲気を感じ取ったナルトは眉根を寄せる。
未だ精神が不安定である横島。そんな彼にナルトはずっと懸念を抱いていた。
どうも横島はナルトを守らなければならないという使命感に囚われているようだった。
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