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利口な女狐の話
第三幕その四

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第三幕その四

「子供達は逃がしたけれど」
「まだ何かするのかい?」
「こいつは一度酷い目に逢わせてやりたいわ」
 こう言うのである。
「ちょっとね」
「酷い目にね」
「いつも森に入って皆を撃って」
 そのことを同じもりの住人として怒っているのである。
「そんな奴だから」
「だからなのかい」
「そうよ。今はね」
 また言う彼女だった。真剣な顔で夫に言う。
「それは」
「まずはよ」
 さっとハラシタのところに近付いてだ。その膝に軽く噛み付いてみせた。
「あっ、こいつ」
「ほら、そうしてよ」
 こうしてであった。彼を挑発する。怒ったところで立ったところでさらに言うのだった。
「後は逃げるのよ」
「それで何処までなんだい?」
「坂の上にね」
 そこにだというのだ。
「行きましょう。いいわね」
「わかったよ。それじゃあ」
「わかったよ」
 そうしてであった。彼等はすぐにその坂の上に向かう。ハラシタはまんまとそれに乗って二匹を追う。
「待てこの野郎」
 怒った顔で二匹に向かって駆ける。
「こうなったらもう許さないからな」
「ほら、乗ってきたでしょ」
「うん」
 二匹は並んで駆けている。ズトラシュビーチクはその横の妻の言葉に頷く。その間蔦や小石といったものを何なくかわしながらだった。
「それで坂の上までね」
「行ってそれで」
「そこに蔦が絡まってるから」
 そのことを話すのだった。
「そこに連れて行ったらね」
「蔦に足が絡まって」
「それでこけるから」
 そこまで読んでいるビストロウシカだった。
「それでやっつけてやるわ」
「よし、それじゃあ」
「待て、この糞狐共」
 晴らしたはまだ二匹を追っている。
「逃がさんぞ、懲らしめてやる」
「捕まるものですか」
 駆けながら後ろをちらりと見ての言葉である。
「人間なんかにね」
「銃を持っているからそれに注意しないと」
「注意していればいいのよ」
「それだけでいいんだ」
「そうよ。当たらなければいいから」
 実に素っ気無く言うのだった。
「それだけでね」
「また随分と強気だね」
「だってわかってるから」
 だからだというのだった。
「あの人間の腕前もね」
「実際のところ腕前はどうなんだい?」
「これが下手なのよ」
 後ろのその人間を馬鹿にしての笑みだった。
「もうね。当たる奴なんてね」
「いないんだ」
「実はそっちはからっきしなのよ」
 そうだというのである。

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