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失われし記憶、追憶の日々【精霊使いの剣舞編】
第十五話「午後の紅茶」
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あったんだけど」


「色々と手を加えてな。用意してくれた手前エリスには申し訳ないが、あれは到底人が住める環境ではなかったからな」


「ふーん、確かにあれじゃあね。それにしても、あんたってそんなことも出来たのね。リシャルトって苦手なものってあるの?」


「俺にだって苦手なものの一つや二つあるさ。ただ人より出来るものが多いだけの話だ」


 手にしたコーヒーカップに口をつける。一口飲みこみ、思わず手を止めた。


「――? どうしたのですか、リシャルト?」


「なによ苦い顔しちゃって。砂糖でも入れ忘れたの?」


 心配そうに顔を覗き込む二人。


「……どうやらそのようだ」


 コーヒーミルクを入れ忘れたらしい。顰め面のまま手元にあったミルクを投入してよくかき混ぜる。


 幾分かまろやかになったコーヒを再度、口にした。


 クレアがにんまりと猫のように目を細めた。


「へーえ、リシャルトってコーヒー飲めないんだ。さっそく苦手なもの見つけたわ」


「そんな、さも鬼の首を取ったように言わんでも……」


「ふふーん、今更取り繕ったって遅いわよ! リシャルトも案外お子様なのね」


「リシャルトはお子様なのですか?」


「ぐっ……そういうことにしておこう」


 事実コーヒーは砂糖かミルクを入れないと飲めないからな。しかし、エストに言われると思いのほかダメージが……。


「あら、皆さんお揃いですの?」


 不意に聞きなれた気品のある声が鼓膜を叩いた。


 振り返ると豪奢なプラチナブロンドをたなびかせたリンスレットが立っていた。


 相変わらずの高貴なお嬢様を絵に描いたようなたたずまい。ただそこに立っているだけで絵になるような一種の美がそこにあった。


 宝石のようなエメラルドの瞳が興味深そうな色を湛えている。


「……なにしにきたのよ、リンスレット」


 クレアの自称ライバル、リンスレット・ローレンフロストは腰に手を当てたまま、優雅に髪を掻き揚げた。


「ただの散歩ですわ。クレアさんはご昼食ですの? パンだけだなんて随分と質素な昼食ですわね」


「喧嘩売ってんの、アンタ?」


 ガルルル……と可愛らしい牙を剥くクレア。リンスレットの背後ではいつものように穏やかな笑顔を浮かべたメイドのキャロルがにこやかに口を開いた。


「お嬢様は羨ましいんですよ。皆様の輪に入りたがってるんです」


「ちょっ、キャロル!?」


 とんでもないことを笑顔で暴露する専属メイドに慌てふためくお嬢様。その様子がどこか微笑ましく思えるのは俺の精神年齢が三十路近くになってきた
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