混乱
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視覚だけではない。
鼻に突き刺さるのは、この世の生ゴミや死体を全て集めて煮出したような匂い。一度息をするだけで、鼻が腐り、気絶しそうになる程の暴力的な匂い。
自分の尻が触っているのは、生暖かくてブヨブヨネチャネチャとした肉の塊。少し身動きするだけで、その肉からプチュッと、紫色をした血液のようなナニカが飛び出る。
耳が拾うのは、化物の声と、世界に蠢くナニカのズルズルという音。キィキィという黒板を爪で引っ掻いたような音と、地獄の底から響いてきたような低い音で話す化物の声が、彼女の精神を更に削る。
舌が感じるのは、腐った空気の味。空気に触れたこの舌を切り落としたくなる程の冒涜的なその味は、他の五感と相まって、彼女に自殺を決意させるには十分な物だった。
「な、なにしてるんだリーン!?」
彼は未だ知りえぬ事だが、まつろわぬナイアーラトテップの権能には、どうやら個人差があるようだ。精神耐性の差かもしれないし、ナイアーラトテップとの相性かもしれない。何が原因かは分からないが、ヘルはまだ権能の影響を殆ど受けていなかった。そんな彼だからこそ、彼女が果物ナイフを手に取った事に素早く反応出来たのだろう。
「やめろ!」
躊躇なく自身の首に突き立てようとしたそのナイフを、彼は全力で弾いた。しかし、彼は知らない。その叫び声も、ナイフを弾くために触った手のひらも、全てが彼女の精神を削り取っていくということを。
「あア・・・。邪魔、するのネ・・・?」
既に、リーンは正気を保っていなかった。涙を流し、焦点が合っていないその瞳。出来るだけ周りの物には触れないように慎重に動き、まずは目の前の化物を排除しようとする。彼女にとっては、自分以外の全てが化け物である。先程まで一緒にいた人間のことなど、既に頭から消し飛んでいる。彼女にとっては、自分は何の前触れもなく異世界に放り出されたようなものだ。この冒涜的な肉の空間が、あの清浄感溢れる病院の一室だったなどと、誰が信じられようか?
「ど、どうすればいいんだ!?何が起こってる!?」
彼の叫びと同時に、ドーン・・・!!!という音と地響きが病院に響いた。
「爆発・・・!?【聖魔王】様のこの病院で、戦闘行為を行ってる馬鹿がいるのか・・・!?」
彼の考えを裏付けるように、爆発は広がっていく。それも、病院各所で同時に爆発が起きることさえあった。金属同士をぶつけ合う甲高い音が響き、今起こっているのが異常自体だと、嫌でも彼に認識させる。
「どうなってるんだよ!?」
叫びながら、軋む身体に鞭打って彼はベットから転がり落ちる。自身の心の平穏を保つために、リーンも攻撃を開始したからだ。一秒でも長くこの空間にいるのは耐えられないとい
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