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剣の丘に花は咲く 
第一章 土くれのフーケ
第七話 未知数の実力
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かって、ギーシュはゆっくりと顔を上げる。

 な、何となく只者じゃないな〜と思っていたけど……これ想像以上だ。ふっふふ、もう魔力はすっからかんだ……けど。

「ま、まだまだ。……せ、せめてか、かすらせて見せる」

 痛みや疲れ、悔しさなどいろいろな感情が混ざった涙目に、どこか懐かしいものを見るような目でギーシュを見た士郎は、口の端を微かに曲げギーシュの頭をガシガシと乱暴に撫でた。

「わっ、なっ、何をするっ」
「いや、見くびっていたと思ってな」

 そう言うと士郎は、ギーシュと決闘を開始した地点に戻る。右手に持った木の枝を体の正面に持っていき、士郎はギーシュに向かって騎士の礼を示す。纏う雰囲気は、素人目でも明らかなほどに歴戦の騎士の気配を漂わせていた。
 周囲で観戦していた生徒達が見惚れる程に綺麗な礼の姿を見せながら、士郎がギーシュの名を呼ぶ。

「さあ来いギーシュっ! せめて一撃、この身に当てて見せてみろっ!」
「うっ、う・お・オ・ッオオオ」

 エミヤシロウ……ははっ、なんて、なんて凄い男なんだ! この男は一体どのくらい強いんだ……僕も、こんな……。

 疲労で震える体を必死に動かし、ただ真っ直ぐ士郎に向かってギーシュは駆け出す。精神力を限界まで使ったギーシュには、魔法を使う余裕が無く。ならば震える足を必死に動かし、せめて士郎に体当たりでもと最後の一歩を強く踏み出し。

「ダアァーッ!」

 せめて、一撃……っ!

「―――良い気迫だ。お前はきっと強くなる」

 必死の形相で向かって来るギーシュの額に、士郎は右手に持った木の枝をタイミング完璧に降り下ろし―――ヴェストリの広場に本日五十回目の快音が鳴り響いた。





 士郎の一撃を受け、奮闘虚しく倒れようとするギーシュは、無意識に覚悟していた地面とは違う硬くも暖かい感触に戸惑っていると。

「鍛え直して、また挑戦してみろ」

 頭を叩く軽い感触と共に、力強い声が聞こえ。

 そんなの……。

「もち、ろんだ」

 結局指先すら届かなかった男からの言葉に対し、ギーシュは微かに笑いながら答えた。





「ギーシュっ!」

 周りの観客の中から、食堂でギーシュにワインをぶっかけた豪奢な髪型の少女が、士郎に寄りかかったまま動かないギーシュに駆け寄っていく。

「心配するな。ただ疲れて気絶しただけだ。寝ればすぐに回復する」

 豪奢な髪型の少女。モンモランシーに、士郎は気絶したギーシュを渡す。

「……あ」

 ギーシュを受け取ったモンモランシーの口から、小さく驚きの声が溢れた。
 気絶したギーシュは、まるで精一杯遊んで寝てしまった子供のような、満足した顔で気絶していたからだ。


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