第一章 土くれのフーケ
第七話 未知数の実力
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「おっ、美味しいですっ! シロウさんってお料理上手なんですね」
明かりが漏れる食堂の厨房からシエスタの感嘆の声が聞こえてくる。
「ん? ああ。ありがとうシエスタ。まあ、数少ない趣味の一つと言うのもあるが……昔はよく作らされてたりしたからな」
「そう、なんですか? でも、厨房の鍵を開けただけでこんなに美味しい料理を食べさせてくれるなんて、何だが申し訳ないです」
「いや、そう畏まられても困るんだが……。本当にシエスタには感謝しているんだ。何せ朝から何も口に出来なかったからな……シエスタが厨房の鍵を開けてくれなかったら、確実に明日の朝まで何も食べられなかったよ」
突然だが、何故深夜の厨房で士郎がシエスタに料理をご馳走しているのかと言うと。勿論士郎が美味しい料理をご馳走すると言いくるめ、いかがわしいことをしようと誰もいない深夜の厨房にうら若き乙女を連れ込んだという理由ではなく。ちゃんとした理由があった。
それは学院長室から出た直後のことであった。突然の空腹に襲われた士郎は、そこで自分が今朝から何も食べていなかったことを思い出すと、悲しげに鳴く腹を抱えて足早に食堂に行ってみたのであったが。着いた時には、食堂も厨房も既に明かりが落ちていてしまった後であった。すっかり明かりも人気も無くなった食堂の前で抗議の声を上げる腹の音に屈っし、士郎が愕然と床に膝を着いた―――そんな時のことだ。
―――シエスタが声を掛けてきたのは。
もういっそちょっと外に狩りにでもいって(学院には色々といるし)、久々にジビエ料理でも楽しむかと考え物騒な笑みを浮かべていた士郎の背中に、恐る恐ると言った様子で声を掛けてきたのがシエスタであった。
学院のメイドならばもしや何か食べ物に心当たりがあるのではと考えた士郎が、これ幸いにとシエスタに事の次第を説明してみたところ、『料理長には後で事情を説明しておきます』と、何と厨房の鍵を開けてもらえたのであった。喜んだ士郎は自分の分の料理を作るからわら、小腹が空いているというシエスタにも料理を作ってあげたのだった。
「しかし本当に助かった。シエスタには今度なにかお礼をしなくてはな」
「そっ、そんないいですよ。こんな美味しい料理を作ってもらっただけて十分ですよ」
士郎の言葉をシエスタは顔を横に振って断ったが。
「いや、流石にこれはお礼にはならないからな。そうだな、何かないか? して欲しいことや欲しい物とか?」
笑いかけてくる士郎にシエスタは顎に指を当て。
「え、えっと。それでは、その。明日のお昼なんですが、料理を運ぶのを少し手伝ってもらってもいいですか? 実は給仕の子が一人お休みしてしまって。朝は平気なんです
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