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銀河英雄伝説 美味しい紅茶の淹れ方
美味しい紅茶の淹れ方
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はいくらでもあるし、目を通しておくよ」
そう言って、更にページをめくるフェルナーが、急に手を止めて一点を凝視したかと思うと、苦笑いを浮かべた。その様子を見ていたシュルツが、面食らったように目をみはる。
「どうなさいました、准将?」
シュルツの問いに、フェルナーはしばらく答えなかった。たっぷり10秒ほど沈黙した後、なおも笑みを浮かべながら口を開く。
「シュルツ、閣下にどんな紅茶を出したんだ」
「……え?」
予想の斜め上を行ったフェルナーの言葉に、シュルツは裏返った声で聞き返した。あどけなさを残す秘書官の瞳を、鋭く輝く翡翠の宝石が睨みつける。
「卿に、紅茶の淹れ方を教えろとさ」
バサリと書類をテーブルへ投げ出して、フェルナーは大きく伸びをした。
「やれやれだよ、まったく」
狐につままれたような顔をしたシュルツを見やって、オーベルシュタインが挟み込んだメモを掲げて見せる。そこには確かに、流麗だが几帳面さを感じさせる、彼らの上官の筆があった。
「どうせ、冷たいポットやカップを使ったり、蒸らし時間がもったいなくて闇雲にかき混ぜて色を出したりしたんだろう」
フェルナーは手招きで若い秘書官を呼び寄せると、メモの白紙部分に箇条書きを始める。
「はあ、小官は素人ですし……」
空いた口が塞がらないといった様子のシュルツに、紅茶の達人はぽんぽんと言葉を投げかけた。
「ああ、分かってるさ。だから、基本から教えてやろう。それと、閣下に飲み物を出す時間も、一通り教えておいてやる。まず、朝は濃いめのコーヒーにクリームをつけてな……」
話の流れについて行けずにいたシュルツであったが、矢継ぎ早に出される指示を必死で書きとめつつ、頭に浮かんだその言葉を口に出さずにはいられなかった。
「准将は、まるで閣下の世話女房ですよ」
シュルツの呟きにフェルナーは、「俺もそう思わないでもない」と、手のかかる上官を思い浮かべて笑った。


 その日、昼食後に運ばれてきた紅茶にはクリーマーがついておらず、オーベルシュタインは怪訝そうな顔で秘書官を見やった。
「閣下は普段、クリームをお入れにならないと伺いましたもので」
シュルツは柔和な笑みを浮かべて、上官へストレートの紅茶を差し出した。
「どうぞ、召し上がって下さい」
その笑顔の下の緊張を読み取ってか、オーベルシュタインは「そうか」と呟いてから、ティーカップを持ち上げた。色の薄い唇から一口分の紅茶を流し入れて、しばし手を止める。
「ふむ……」
充分に舌の上で味わってから、ゆっくりと飲み下す。
ディンブラ特有のバラの花のような香りが鼻腔を抜け、オーベルシュタインは思わず目を瞑って微笑んだ。


(Ende)
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