美味しい紅茶の淹れ方
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、誰とはなしにひとりごちた。
他人を寄せつけない性質を自負しながら、そんなささやかな気遣いを受けていたことに、何ともいえず滑稽さを感じる。つくづく、不思議な部下だと思う。と同時に、そんな部下を手元に置くことに、僅かの抵抗も覚えないことが不可解でもあった。好悪、快不快といったものが、理論や理屈を超えた某かの産物であるということの例証であろう。
軽いノックの音と共に、紅茶の香りと秘書官が入室してきた。従卒に任せず、彼自身が持参するところは、生真面目なシュルツらしいと思う。
「閣下、お待たせしました」
色の良い紅茶に、ミルクが添えられる。オーベルシュタインは、緊張の面持ちのシュルツへ向かって、軽く肯いて見せた。色は良い。ストレートのまま一口含むと、その美しい色からは想像もつかない渋みを感じた。
「……。」
微塵も表情を変えず、静かにミルクを投入する。紅茶は、淹れ方を知らない者が淹れると、良い茶葉を簡単に台無しにすることができる。それと知っていたオーベルシュタインは、あえてミルクを所望したのであった。……当分は、ミルクティーばかりになりそうだと、内心で苦笑する。
先ほど綴じたばかりのファイルへ、何気なく視線を落とした。
「急ぎではないが、遣いを頼まれてくれるか」
上官の手がペンとメモ用紙へ伸びたのを見て、シュルツは「はい」と短く応じた。もとより秘書官業務の一環である。オーベルシュタインはサラサラと何かを書き込むと、そのメモを綺麗に切り取って、先ほどのファイルへと挟んだ。
「これをフェルナー准将へ」
青白い、しかし意外に滑らかな手で書類を差し出され、シュルツはさっと受け取った。動きや業務遂行に無駄がないこと、それもこの軍務省では、いや、オーベルシュタインの部下としては欠くべからざる資質であった。
「ルビンスキー逮捕に至るまでの報告と、今後の処遇についての検討だ。あれが復帰する時には、頭に入れておいてもらわねば困る」
そう伝えてくれと言おうとして、オーベルシュタインは言葉を切った。……そのようなことは、伝えるまでもない。不遜で切れ者の部下は、完璧に近いほどにその内容を頭へ叩き込んだ上で、己の、それも的確で上官を満足させる意見と、それを実行した場合のシミュレーションパターンを複数添えて復帰するであろう。
「了解いたしました。何かご伝言がおありでしたら、承ります」
秘書官の型どおりの言葉に、軍務尚書は間髪入れずに否と答える。
「それでは、失礼いたします。……閣下」
「……何だ?」
胡乱げな視線で射抜かれたシュルツは、それまで努めて続けてきた官僚的態度を崩すと、くすりと笑って言った。
「准将がご不在だからといって、ご無理は禁物ですよ」
言い終えるが早いか、若く優秀で、不思議と人を和ませる能力を持つ秘書官は、足早に姿を消し
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