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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第四十話 独立混成第十四聯隊と将軍達の憂鬱
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皇紀五百六十八年 五月三十日 午前第十刻
独立混成第十四聯隊本部官舎 幕僚執務室
聯隊首席幕僚 大辺秀高少佐


「聯隊長殿は明日、粟津に行くのですよね?」
 訓練に関する考課を取り纏めながら兵站幕僚の山下大尉が呟いた。
「そうだ。 まぁ、所用と往復で二日程空けるだけだから特に我々の職務が滞る事はないだろう」
 馬堂中佐が行うべき聯隊長としての職務は膨大なものであった。だがそれを滞らせた事はなく、武勲はあっても経験の浅い若者に聯隊長を任せる事に懐疑的だった者達も(少なくとも平時の)能力を疑う事は無くなった。
 この辺りは兵部省と軍監本部を若くして経験していただけの事はある、といえるだろう。現在も事務を片付けたら即座に各部隊の訓練状況の視察に出ている。聯隊長がこうした事に積極的なのは、幕僚教育で叩き込まれた事の一つであるし、本人が聯隊麾下の将校達から信を得る事に熱心だからでもある。

「幸い訓練計画は順調に進んでいる。砲兵隊は順調そのものだ。導術利用に慣れた衆民将校が多数を占めていて助かるよ、将家の連中となるとどうしても使い渋るからな」
と鈴木砲兵幕僚も頷いた。彼もまた衆民出身であり、砲兵と導術の親和性に着眼し運用研究に携わっていた将校の一人であった。

 人務幕僚の芹沢大尉が頷く。
「連隊全力の訓練にも間も無く漕ぎ着けられる。来週中には他兵科部隊間での共同訓練に取り掛かる事が出来る」

それを聞いた山下大尉が笑みを浮かべ
「ま、聯隊長殿はまだお若い。順調だからこそ我々が補佐しなくてはならん。
肝心な処で転んだら話にならないぞ?」と云った。


「まぁ、そうは云っても実戦となると〈帝国〉とやりあった経験があるのは
連隊長達――第十一大隊の生き残り達だけですけどね」
情報幕僚の香川大尉が呟いた。

「・・・・・・それは言うなよ。」
戦務幕僚の石井少佐が苦笑する。

「まぁ、だからこそ今は訓練ですよ。それに全てが順調とも云えません、第二大隊の一部で訓練が遅滞しています。本部鋭兵中隊から人員を入れ換えた方が良いかもしれません。このままでは、来週から鉄虎大隊と共同で夜襲の訓練を始めるのは難しいです」
訓練計画も担当している人務幕僚の芹沢大尉が提案するが

「本部の護衛を任せるのは論外だ。ならば外に出す方が良いのではないか?
その辺りは聯隊長殿が判断すべきだ、戻るまで待った方が良いだろうと思うがな」と石井少佐は首を横に振った。

「鉄虎大隊は聯隊の切り札になりうる打撃力を有している。
多勢相手だと彼らが如何に奇襲を成功させるかが鍵になる事も多くなる。
夜間共同行動を重視するのならば訓練についていけない連中を受け入れる余裕はない。
共同訓練の前になんとか解決してもらいたいところだな」
 と剣虎兵
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