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〜烈戦記〜
第五話 〜討伐令〜
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賊がいないなら蛮族を狩ればいい』

こいつは何を言っているのか。
さっきの話を聞いていなかったのか?

『いや、ですから蕃族とは既に友好関係を…』
『蛮族との友好関係などに何の意味がある?むしろ我ら本国の民が劣等民族と友好関係だと?ふざけるな!』

…そうだ。
ここでの生活が長かったから忘れていたが、基本的に私達は他の民族を"劣等"と見下し自らを"高等"と名乗る民族であったのだ。

考え方としてはこうだ。
長い戦乱と歴史の中で勝ち残り、今では大陸15州を統べる我らが至高で尊い民族であり、他の追随を許さない絶対の民族である。
そして周辺民族は取るに足らない存在であり、あっても我ら民族を脅かす"害"でしかない…と。

この大陸は広大で古代の頃は民族が乱立していた地であった。
その中で民族淘汰を生き延びた自信がそのまま傲慢な民族性に繋がっているようだ。
私も例外ではなく、数年前の戦乱の時は自らを孤高の民族だと信じて疑わなかった。
むしろ他の民族との共存意識こそが少数派であり、民族淘汰の世界では種を絶滅させる危険な思想だと。
その後私は豪統様と出会って感化されてしまったが、誰しもが何百年も続く民族意識を払拭できる訳ではない。
それどころか、今でこそ少なくなった民族同士で均衡が保たれているが、いつまた民族淘汰が始まるかはわからない。
だからどちらが正しいかなんてわからないのだ。
都の方では大学ができて以来この民族至高主義の考え方を否定した教えを広めているらしいが、大学自体がまだ日が浅く、全体への意識の広まりも薄い。

そして今目の前にいる人間は多数派の人間だ。
最初は呆気にはとられたが、別段変な事を言っているわけではない。
そう考えると、民族意識すら忘れてしまえる程この関の環境は異質な程に独立し意識が統一されているようだ。
よし悪しはともかく、豪統様の統治はそれ程にしっかりしているようだ。

…さて、話はそれたがどうしたものか。

『し、しかし!蛮族ではあっても我々に利益をもたらす蛮族でございます!その彼らを無用な戦で根絶やしてしまうのは…』
『ならお前は俺にこんな辺境にまで来て何もせずに帰れというのか!?ふざけるな!』
『も、申し訳ございません!』

豪統様の必死な説得が続く。
私は一武官として関の方針について口を出す事ができない。
だが、州牧の命を退ける事は一関将には叶わない。
目標が無ければ話は別だが、いくら友好的といえど、蕃族はやはり蛮族なのである。
だが、蕃族との争いはなんとしても避けなければならない。
利益云々ではなく、共に生きる関の仲間として。
これは豪統様が一番に大切にしている意思であり、望んでおられる事だ。
そして私は豪統様の兵士だ。
主の望みを叶えるのが兵士の役目
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