10日間の小さな行軍記
行軍3日目
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た。
「お前は良いヤツだから教えるが、夕食を食ったらグランシェとかいう相棒と逃げろ」
「……何言ってんのさ」
いきなり何の話だよ。
「まだ歩き始めて3日だ。休まず帰ればまだ何とか生きて帰れる」
「いや、そういう事じゃなくて……」
今しがた、仕事を放っておくなんてあり得ない的な事を考えてたばかりだし。
「タイチ、昨日夜空を見たか?」
「……あぁ、見たよ?」
いきなりの問いかけに少し驚いたが、取り合えず眺めた記憶はあったので正直に答えた。
綺麗な夜空だった。東京でもニューヨークでもパリでも見られないくらいに美しい夜空を堪能できたんだ。
なんて回想に浸っていると、全くトンチンカンな答えが返って来た。
「昨日の月は細かったんだ。もうすぐ、今日か明日には新月がやって来る」
「……それが何なんだよ」
そんな事は判るが、シュナウドの意図が全くよく分からない。
「狼人は夜目が効く。俺達を襲うなら新月であるはずの今夜か明日あたりの夜だ」
そのまま、シュナウドはあくまでも無表情で続ける。
「俺達奴隷はどうせ逃げれば殺される。だがタイチ達は違う。命を無駄にするなよ」
コイツ……。
「ってバカか貴様は!!」
シュナウドに愛の拳を!! と思って頭に振り下ろしたが普通に避けられた。
「ちびっ子のクセに何シリアスぶっこいてんだよ!! 『命を無駄にするなよ』とかジジクセェこと言ってんじゃないよ!!」
ここで仕事放棄とか、世界一働き者で真面目な日本男子の名が廃る!!
「お前と違って俺達は仕事でここに来てるんだ!! シュナウドは逃げるチャンスが有れば逃げても良い奴隷。俺達は逃げるチャンスが有っても逃げちゃダメなんだよ!! 自分で受けた仕事には責任を持つのが大人なの!!」
「…………」
シュナウド、ア然。
「……タイチ、凄いよ」
「……ドヤッ!!」
俺は鼻の穴を膨らませて言った。この世界には無い価値観かも知れないが、それでも俺はこの考えを捨てる気は無いし、捨ててはならないとさえ思っている。
少しおかしな話だが、この思考回路が、俺が現代に生きていた証しでありココでのアイデンティティだと感じているのだ。
感じているのだが、シュナウドは全く理解してくれないみたい。
「ホント、タイチは筋金入りのバカだ。俺を含め、一部の戦闘奴隷は多分死なない。でも今回の傭兵の中でも本物のプロはグランシェとか言うオヤジを抜けばほんの一握りだ。狼人が本気で襲って来たら全滅だぞ?」
「フン、知らんわ!!」
例え襲って来たとしても死んでたまるかコノヤロー!!
しかしこの時、もし依頼主が御臨終したら逃げようと心に決めて
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