後編
戯画(カリカチュア)
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細君に預けた二人は、オーベルシュタイン邸を出て再び地上車に乗った。
「何がおかしい」
相変わらず肩を震わせている部下に向かって、オーベルシュタインは訝しげに問い質した。
「いえ……失礼しました。ただ、閣下にも子ども時代があったのですね」
「……聞いていたのか」
冷徹と称される軍務尚書は、助手席から手を伸ばして地上車に行き先を入力すると、簡素なつくりのシートにもたれた。彼の部下の笑いの元凶となった会話には一切触れず、やや機嫌を損ねたかのように、黙り込んだまま地上車のわずかな揺れに身を任せた。
戯画。表通りから一本裏に入ったところに、ひっそりと佇むその店は、そういう名であった。看板は出ていなかったが、店のドアに宇宙海賊を模した戯画が描かれており、その名を連想させるに容易かった。地下へと降りる階段。およそ帝国貴族が足を踏み入れる店とは思えないが、だからこそ独りで呑むことを好む彼、オーベルシュタインには似合いの場所と思えた。
「いらっしゃいませ」
50代くらいと思しき、白髪交じりの丸顔の男が、マスターのようだった。と言っても、この店に他の従業員はいない。
「連絡を頂いて驚きましたよ」
昼少し前のこの時間、このようなバーが開店しているのも妙だと感じたが、メニューには確かに簡単なランチもあり、カフェ・バーといったところなのだろう。マスターは私服姿の彼らを見ても、「休日ですか?」などと問わず、黙って彼らの注文を待った。余計な詮索をされない、そんなところもこの上官の趣向に合致したのだろうと、フェルナーは納得した。オーベルシュタインは地上車の保冷ボックスから取り出した肉屋の買い物袋をマスターに手渡すと、「いつもの席」なのか、カウンターの隅に腰を下ろした。といっても、カウンターの他にはテーブルが2つほどという、ごく小さな店である。
「これは……立派なアヒルですね」
マスターが袋の中身を確かめて声を漏らす。帝国では貴族が好んでアヒル料理を食し、大抵のレストランのメニューには含まれている。値段も高価だが高カロリーでもあり、腹もちが良いため一般的には夕食にすることが多い。
「調理法は任せる。それと、いつものを。彼にも同じものを」
オーベルシュタインはそこで初めてフェルナーに席を勧めて、マスターに紹介した。
「旦那の部下の方ですか。いつもお疲れ様です」
マスターは人のいい笑顔を浮かべて、そう言った。オーベルシュタインのことを「旦那」と言う。きっとここへは、仕事帰りに寄るのだろう。当然軍服だ。軍服は階級によって違っており、何より今の彼の軍服には元帥の証でもあるマントがついている。このマスターは彼が帝国元帥だということを知っているのだろう。それでいて客へ向けての一般的な態度以上のものを見せる様子もなく、気軽に「旦那
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