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戯画(カリカチュア)
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「そうだ、あれも買っておこうか……」
オーベルシュタインが一品注文を追加すると、肉屋の主人は笑顔になって、その大きな品物を手早く包んでくれた。フェルナーは列から抜けて、車を準備してその様子を眺めていた。しかし、噂通りの愛犬家ぶりだなと、癖のある銀髪の部下は、心の中で作戦の成功をほくそ笑んだ。自分のための休暇は必要としないが、愛犬のためには貴重な一日を惜しまない。あの冷徹な男に愛されている存在が、どんな姿をしているのか、見てみたいものだな。彼は噂に聞く老いたダルマチアンを想像して呟いたが、この考察は、実は的を射ていない。彼の上官は確かに愛犬の餌のために休暇を使ったが、もとより休暇など取らず、仕事帰りに店の場所さえフェルナーから聞き出せばよいことなのである。オーベルシュタインはこのアクの強い不遜な部下に、彼の私人としての時間を共有するに足る何かを見出していたということであろう。
「買い物は終わった、フェルナー准将」
買い物袋を後部座席に置くと、軍務尚書は自ら助手席のドアを開け、乗り込んだ。最後に注文した袋だけ、地上車の保冷ボックスにしまうと、端的に指示を下した。
「いったん私邸へ寄ってもらおうか。肉を冷凍室に入れねばならぬ」
「かしこまりました」
新銀河帝国軍の高級将校たちを乗せた地上車は、こうして一路オーベルシュタイン邸へと向かった。

(つづく)

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