ALO編
episode5 旅路、風妖精領2
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奏でながら、その幻想的な景色に深みを与えていた。岬の向こうに広がる海がいままさに日を呑みこもうと、黄金に煌く水面を広げている姿が、俺の記憶の何かを刺激した。
その刺激は。
「……し、ド?」
「あ、ああ?」
俺の目から、一筋の涙を無意識に零させた。
流れた一筋が、滴となって零れ落ちる。
モモカが、どうするべきか分からずにあわあわと手をふる。リーファとレコンの二人が、何事かと目を見開く。ブロッサムは変わらない無表情な瞳で俺の涙を見つめる。隠そうと思うのに、体は『麻痺』でも喰らったみたく全く動かない。
唯一動くのは。
「モモカ。なんか、さ。雰囲気ある曲、歌ってくれよ」
「え、ええっ!?」
「ちょっと、夕日がきれいだからさ」
「え、え。えっと……」
震える唇で、横のモモカに声をかけた。
何でもよかった。あの世界のもの以外の何かを、感じたかった。そうでないと、この景色に呑まれてしまいそうだったから。「思い出の品」として、この体を投げてしまいたいほどの衝動を、抑えられそうになかったから。
モモカは、そんな俺に何を思ったか、しばらく逡巡していた。
何かを訴えるように俺を見つめて……その目に決意を宿して、頷く。
自動演奏機能で動き出したギターをバックに、モモカの唇を開いて。
―――風よ 汝は誰の子ぞ
―――光か闇か 火か水か それとも大地か 海の子か
―――何処で生まれて 何処へ往く
零れ出る、鈴の音のようなその声。
―――風よ 汝は誰が親ぞ
―――月か陽日か 木か土か それとも人か 妖精か
―――何処で休みて 何を生む
紡がれる、不可思議で神秘的な歌。
魔法の効果も何もないはずのその歌は、俺に確かな落ち着きを取り戻させてくれた。
「ありがとう」
そんな歌に俺は、こんなそっけない言葉しか言えなかったのだが。
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