第一幕その八
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第一幕その八
「貴方の眼差しが私に注がれた時」
「その時に」
「私は聖なる恐れの心を以って貴方を迎え入れました。私は今まで全てに馴染めず冷たい世界に生きていました」
それが今までの彼女だったのだ。
「私の体験する全てはそうでしたが今は」
「今は」
「貴方だけははっきりと認めることができます」
若者だけは、というのである。
「私の目が貴方を見た時貴方は私のものでした」
「私は」
「そうです。私が胸に潜めていたものが、私の本当の存在が昼の如く明るく私の心の中に沸き起こり」
恍惚とした顔での言葉だった。
「響く音の如く私の耳を打ちました。まるで凍てつく荒野の中ではじめて友に会った時の様に」
「いと甘き喜びよ」
若者もまた恍惚としていた。
「いと妙なる女よ」
「貴方の傍に私を」
ジークリンデはさらに心を寄せていた。
「そうすれば貴方の目から、その顔から流れ出す。気高く輝いているその光を」
「光を」
「そう。私の心を甘く惹き付けるその光を見ることができますから」
「貴女は春の月光の中に輝いている」
若者の声は熱いものになっていた。
「その黄金色の波なす美しい髪は貴女自身に巻きつき」
「この髪は」
「そしてその青く澄んだ瞳は」
己の目と同じ色のその瞳もまた。
「誤りなく見詰めそのうえで私の眼差しを歓喜に満たしてくれます」
「私には見えます」
「何がですか?」
「貴方の額にはっきりと高貴な血脈が」
それが見えるというのである。
「奇跡の様に思われるのは今日私は貴方にはじめて出会ったのに貴方を見たことがあるからです」
「私もまた同じです」
彼もだというのだ。
「かつて見た愛の夢を思い出します。強い憧れを以って既に貴女を見たことがあるのです」
「私は小川の水で見た自分自身を今見ています」
「貴女をですか」
「そうです。私自身をです」
互いに言い合う。
「貴方の中に秘めた姿、それは私なのですね」
「そうだったのですね」
「その声を私により聞かせて下さい」
ジークリンデの声もまた熱くなっていた。
「その声はかつて聞いたことがあります」
「私もまた」
「あの森の中で」
森が出た。それは。
「あの幼い日に」
「貴方の目の中の輝きを私は見たことがあります」
何かを思い出そうとしていた。
「あの灰色の人が私に呼び掛け悲しめる私に慰めを与えてくれた」
「あの人がですね」
「あの眼差しこそがそれです」
ジークリンデは何かを思い出そうとしていた。
「彼の子は父を認めもう少しでその名を呼ぼうとしていた」
「私と同じように」
「そして貴方は」
あらためて彼に問うてきた。
「貴方の御名前は本当にヴェーヴァルトなのですか?」
「いいえ」
だ
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