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東京百物語
ゆり
一本目
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れど、ゆりだけはじっと考え込むように押し黙っていた。



「あなたにはあああああ、思い当たることがあるはずですよおおおおおおおお」



 老婆はぐいと身を乗り出すと、カッと目を見開いた。



「ゆりちゃん…」



 怖くなったのか、山下がゆりの腕をつんと引っ張った。



 しかしゆりは、はっきりとした口調でいった。



「ねぇ。ちょっとみんな先に帰ってて」



「ゆりちゃん!」



 山下が非難するようにゆりの名を呼んだ。



「いいから」



「ゆりちゃん、何言ってるの?絶対絶対、200パーセント怪しいよ!気にしないで帰ろうよー明日早いし、ね?」



「大丈夫、きっと。あのおばぁさん絶対に私より力ないからどうにかなるわけないし」



「…そうかも、だけど・・・。わかった!心配だからあたしも一緒にいる!それならいいでしょ?」



 ゆりは山下の申し出をありがたく受けた。どのみち、目の前の老婆一人なら女二人でも危ないことにはなろう筈もない。



「じゃあ僕も残ろうかな。やっぱり、こんな夜に女の子二人は残しておけないしね」



 にこにこと笑いながら、唐突に青山が言った。



 ゆりにとっては願ってもいない申し出だった。



「ねぇ、おばぁさん」



 大学のみんなを見送ってから、ゆりは老婆に神妙に声をかけた。老婆の言葉を戯言(たわごと)と流せない心当たりが、ゆりにはあった。



「いけないもの、って、なに」



「あれをおおおおお」



 老婆はさっとゆりの背後を指さした。三人は振り返るが、電柱がある以外はこれといったものもない。



「…電柱?」



「見えないのですかあああ感じないのですかああああいけない、いけませんぞおおおおあそこから、じっとこっちをみているものが、いるではないですかああああ憑かれているあなたには、少なからずわかるでしょうううううう」



 老婆はゆりの鼻先に指を突きつけた。ゆりは、背筋が寒くなった。



 もう一回、振り返る。



 新宿は夜でも明るい。色とりどりのネオンが煌々と夜の町を照らす。そのなかでも、確かに、老婆が指さした電柱のあたりは薄暗く、じっと見ていると、嫌な感じがお腹の底からじわじわとあがってくるようだった。



 あそこに立って、ゆりをじっと見ているものが、いるのだ。



「わたし、どうなるの…」



 その言葉はゆりが思っているより弱々しく響いた。



「死ぬ」



 老婆はにいぃと笑った。いびつに並んだ黄色い歯
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