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東京百物語
ゆり
一本目
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「あなたあああああああ!そこのおおおお、あなたああああああああ!」



 冷たい風は容赦なく通行人の体温を奪っていく。



 アルコールがまわりきっていない仲間の何人かが寒そうに首を窄めて歩いている。



 大学2年生になったばかりのゆりも例外ではなく、冷える夜風を首に巻いたショールでやり過ごそうとしていた。飲み会といっても、次の日朝から授業もあるし、そうそうはめも外していられない。新宿のごちゃごちゃとした喧噪も、少し離れたところを歩く気になっている彼も、あまりの寒さに一瞬ゆりの思考から消えていた。



「お待ちなさいいいいそこのあなたあああ!」



「きゃー!いやっ!な、なに!なんですか!離してください!」



 ゆりは仰天した。骨と皮ばかりのしわくちゃな指がいきなりゆりの手首にぐっと絡みついたのだ。



 咄嗟(とっさ)に振り解こうと見れば、それは小柄な老婆だった。ぎょろりとした大きな目がネオンを反射しててらてらと光るのが不気味で、ゆりは老婆を突き飛ばしてしまった。



「ゆりちゃん!」



「山下!」



 ゆりは駆け寄ってきた友達の山下にひしっと抱きついた。



 山下は大学で出会った女友達だ。危なっかしいともとれる素直な性格がゆりは気に入っていた。



「大丈夫ですか」



 転んだ老婆を優しく助け起こしているのは、これまた友達の青山である。



 この青山という好青年、実はゆりが密かに気になっている男であった。



 いつもさわやかに笑っている青山の渾名(あだな)は「王子」だ。顔面偏差値はトップレベル、ファンクラブも山のように存在し、噂では芸能界やモデルの話も数えるのがばからしくなるくらい押し寄せているがすべて断っているようで、実家は大金持ち、これで性格もいいとくれば文句のつけようのない「王子様」だ。



 老婆を突き飛ばしたことで、青山にがさつな印象を与えたかもしれないと少しゆりは青ざめたが、後悔してももうしてしまったものは仕方がない。



「あの、乱暴にしてしまってすみません。でも、いきなり人の腕をつかむのはどうかと思います!」



 ゆりは一応謝った。



 しかし老婆は聞いていない風で、青山の腕の中、ぶるぶると震える指でゆりを指さした。



「いけない、いけないものが、()いていますよおおおおおおお」



「は?」



 それを聞いた大学仲間から、馬鹿にした笑い声と、訝しげな声が上がった。



「オバーチャン、壺はいくら?」



 そう老婆をおちょくってげらげらと笑うものもいる。



 け
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