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ワルキューレ
第二幕その一
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第二幕その一

                   第二幕  混迷 
 ヴァルハラの一際高いビルの屋上に彼はいた。その白いスーツで槍を持って。そのうえで呼んでいた。
「我が娘よ!ブリュンヒルテよ!」
 こう呼び掛けていた。右目のないその顔で。
「今こそ馬の手綱を引き締めるのだ」
「御父様!」
 その時天に乙女が現われた。白馬に乗り白い羽根の兜を被っている。兜からは豊かな金髪が溢れて出ており輝く光を放っている。白い顔に凛とした美貌をみせている。目は青くそれはまさに蒼星だった。黒い皮の服とコート、ズボンもブーツも黒だ。黒い服に身を包み右手には槍、左には水晶を思わせる透き通った楯を持っている。その武装した乙女が今その男の下に降り立ち高らかに叫んでみせたのであった。
「ホヨトーーーホーーーー!ホヨトーーーホーーーー!」
「やがて激しい戦いがはじまる」
 その男ヴォータンはその乙女、ブリュンヒルテにさらに告げる。
「戦場に赴くのだ」
「勝利をもたらすその相手は」
「ヴェルズングだ」
 彼等だというのである。
「フンディングではない」
「彼はヴァルハラには」
「来る資格がない」
 一言で言い捨ててしまった。
「それではすぐに行くのだ」
「はい。そして父上」
 今度はブリュンヒルテが楽しそうに笑いながら彼に告げてきた。
「父上も戦の用意を」
「私もだというのか」
「はい。激しい嵐に向かわれるのです」
 そう彼に告げるのだった。
「奥方がこちらに向かって来られています」
「あれがか」
 妻と聞いてその顔を不機嫌なものにさせるヴォータンだった。
「あれが来たのか」
「今牡羊の馬車に乗り慌しく」
「忌々しいことだ」
 ヴォータンは苦い顔で言い捨てた。
「全くもって」
「では私はこれで」 
 ブリュンヒルテは敬礼をしてみせた。優雅な敬礼であった。
「勇敢な男達の戦場に向かいます」
「行くがいい」
 ヴォータンはこの言葉で娘の敬礼に応えた。
「それではな」
「はい。ホヨトーーーホーーーー!」
 またここで叫ぶのだった。
「ハイアハーーーーー!ハイアハーーーー!」
 こう叫びながら馬に乗り天高く駆け去っていく。のこったヴォータンの後ろに今そのフリッカが来たのだった。
「何の用だ」
「何の用かではありません」 
 フリッカはいきなり不吉な顔で夫に告げた。
「私はある願いを聞き入れました」
「人間達のか」
「そうです。フンディングの名は御存知ですね」
「取るに足らない男だ」
 ヴォータンにとってみればまさにそうだった。
「あの男がどうした」
「彼は私に復讐を願ったのです」
「復讐をか」
「そうです」
 その不吉な顔で語るのだった。
「私は夫婦の徳を守るのが務めです」

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