誓いの言葉
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「ふむ……良いものだな」
ヴォルフは温泉に浸かりながら素直にそう思った。
夕食前に入るようにと夏空に言われたので、旅館を兼ねている集会場にある温泉に入ることになったのだ。
茜色に染まった空を見ながらの入浴は、以前にも経験がある。ただし、あの時は二本角の大型牙獣と一緒の入浴で、互いに睨み合いになりつつも湯に浸かっていたものだ。
何日か同じような日々が続き、最終的にはお互いに不干渉を貫いてあの牙獣が来なくなるまで続いた。どうなったのかは知らない。
あの日々は今のようにのんびりとしていられる物ではなかったので、何処か感慨深いものがある。
岩に凭れて空を見上げると、遠くに鳥が飛んでいくのが見えた。紅葉の葉が風に靡かれて、ゆらゆらと落ちていく様など、風情があって良いものだ。
(この村に来て、俺は少し変わったのか?)
この村に来て今日で二週間以上が過ぎている、ヴォルフは僅かながら自分の変化を自覚していた。以前の自分なら他人に物を教えようと等、思いもしなかった。
共に戦うことはあっても同じ人間とは二度と組みはしなかったし、顔を会わせる事も会わせようともしなかった。
そんな過去に比べて今の自分はどうだろうか……。確実に変わってしまっている。
今は直接関わりのある神無や夏空に小冬を初めとした面々だけだが、何れはもっと多くの人間と肩を並べて行く事になるのだろうか?
ヴォルフはそこで思考を止める。考えても詮無き事だ。それは良くも悪くも自分を変えて行くのであれば、身を任せるのみだ。
「お? もしかしてヴォルフか?」
不意に聞こえた声で、ヴォルフは声のした方向を見る。そこには腰に手拭いを巻いた正太郎がいた。
「奇遇だな。温泉はどうだ?」
「……良い物だな。お前が大切に思っている理由が何となく分かった」
ヴォルフがそう言うと、正太郎は心底嬉しそうに笑って見せた。
「へへっ! そう言って貰えっと嬉しいねえ」
正太郎はそう言うと湯船に浸かった。
「前にも話したけどさ、俺はこの村が好きなんだ。だからハンターを志した。……ヘタレだけどよ」
「……お前はそんな自分を変えようと思ったのだろう? なら、とうにへたれとやらではない」
ヴォルフはヘタレと言う言葉がやけに言い難そうだったが、意味は理解していたので正太郎の言葉を否定する。
「まだ実戦に出ちゃあいねえんだ。まだヘタレ卒業とはいえねえよ」
ヴォルフは正太郎のそんな言葉に心底驚いた。まさかこの短時間でここまで自分の意識を変えられるとは思っても見なかったからだ。
「つー訳でよろしく頼む。また明日からビシビシ鍛えてくれ!」
「なら、まずは武器を確実に構えられるようになる事だ」
「う゛……」
ヴォルフの言葉に、正太郎は思わずばつの悪そうな顔にな
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