4.本当のスタート
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「じ、じゃあ……」
「正真正銘男です!別に水をかぶると変わるわけでも、グロテスク人形によって変えられたわけでもなく!正真正銘男です!」
あれからしっかりとお話、と言うか嘆願にも近い説得によって理解はしてくれたみたいだ。その顔はありありと納得していないと言っているが。
「で、でもその髪型は?」
「……いや、それは、その」
まぁ、そうだよな。
シリカちゃんが指摘した俺の髪型。男性にしては長すぎる。それもただ伸ばしている訳ではなく、その長さに調整して手入れもしているのだから余計に勘違いするのだろう。顔?次の人生に期待するしかないよ。
ただ、この長さが俺にとっては重要なのだ。鏡を見れば否応なくあの日のことを思い出す。俺の罪を忘れずに、正面から叩きつけてくれる。
何と言えばよいものか。頭を掻きながら思考をめぐらせる。
「別に無頓着と言うわけではなく、ちょっとした事情でね。意図的にこの髪型を維持しているんだよ」
「それが、その髪型?」
「まぁね。女男とは呼ばれたことはあったけど、そんなに似合ってたのか」
もしかすると、知り合いの中にも同じ勘違いをしている奴らがいるかもしれない。い、いや……いないはずだよな。うん。
そういえば、そもそも学生時代はあまり友達と遊んだ記憶が無いな。どちらかというか物理的会話のほうが多かったし、家事が忙しくてまっすぐ帰ってたから。
「……シリカ嬢。学生生活は満喫しようね。後で絶対後悔するから」
「い、いきなりどうしたんですか?そんな寂しそうな顔をして」
「いやなに、過去に残るのは後悔だけだと今更ながらに体感しているだけさ」
まぁ、一応理解はしてくれたんだしこの話題を引っ張る必要は無いよね。と言うか引っ張られると精神へのダメージがひどい。
「そういうことでシリカ嬢。別に俺についてこなくても大丈夫だぞ?女性だと間違えてきていたんならなおさらだ」
女性だからこそ安心していたのなら、勘違いだとしてもこのまま連れて行くのはまずいだろう。だからこそ聞いたのだが、
「問題ありません」
彼女の笑顔には何も変わりも無かった。
「確かに女の人のほうが安心しましたけど、サクさんなら信用できます」
……まぁ、このくらいの年齢ならまだ恋愛云々は経験が無いんだろうなぁ。俺に幼女趣味はないが、少しくらいは防波堤になったほうがいいよな。
「そっか。じゃあこれからよろしく」
「はい!」
それに、これだけの信用を貰ってんだ。それを返さずにいるのは、いささか以上にみっともないだろう?
そう考えながら、無邪気に伸ばされた手をつかみ返すのだった。
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